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医療従事者とともに日本の森林が命を守る ~医療×つな木~

大庭 拓也
日建設計 設計部門
アソシエイト アーキテクト

Nikken Wood Lab|「レジリエンス」な社会インフラの提案

コロナウィルスとの闘いは収束を見せず、これから第2波、第3波が懸念されています。それに加え日本では、地震や豪雨などの自然災害も頻繁に発生していることを踏まえると、様々な非常事態に対して弾力的かつ継続的に対応できるシステムが必要と考えられます。
日建設計の木質・木造の開発研究を行うチームNikken Wood Labではこのような社会課題に対して、日本の森林資源を活用し、限られた時間とコストの中で医療従事者やボランティアの方々が簡易に組み立てることができる仮設医療ブースを、医療施設の建築設計者、エンジニアとの横断チームにより実用化に向けて研究、開発を進めています。

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図1:「つな木」を用いた仮設医療ブース

「つな木」とは

この仮設医療ブースはNikken Wood Labが考案した一般流通木材とクランプと呼ばれる接合部材のシンプルな組合せによる木質ユニット「つな木」を応用したもので、「全国 どこでも だれでも」短時間で組み立てることができます。木材に対する仕口加工など一切必要ありません。

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図2:「つな木」ダイアグラム

「つな木」のご紹介

ウッド・トランスフォーメーションによる「日常」と「非日常」の両立

この仮設医療ブースの最大の特徴は、日常時に病院内の家具や内装材として利用されている木材を、非常時にそれらを解体し、組み換えることで、容易につくることができる点です。これは、ウッド・トランスフォーメーションの概念を用いたもので、日常時の木材による豊かな空間と、非常時への備えを柔軟に両立することを目的としています。これにより、非常時を想定した過剰な先行投資や備蓄スペースが不要になるだけでなく、発注や運搬にかかる時間やコストを最少化でき、予想不可能な感染症や複合災害に対して、迅速かつ経済的に対応することができます。

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図3:BEFORE|院内のカフェやエントランスホールにおける家具や什器として

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図4:AFTER|臨時の仮設病棟として

臨時の仮設病棟を想定した4パターンの平面計画

新型コロナウィルスに感染した患者を院内に受け入れる際に、診察・処置スペースや病室を一般の外来スペースから隔離する必要があります。そのようなシチュエーションを想定し、病室(軽症)、病室(中等症)、診察室(検体採取)、処置・点滴室の4つの医療ブースを計画しています。

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図5:4パターンの平面計画

木材の特徴を生かしたHEPAフィルタユニットブース

木材の「やわらかい」性質を生かし、空間を仕切るビニルシートや空気質や気流を確保するHEPAフィルタユニット等は、ネジやピンによる取り付けとし、医療従事者やボランティアの方々が自ら簡単に組み立てられるようにしています。また、木材の風合いや香りにより、患者や医療従事者のストレスを和らげるなど心理面への効果も期待しています。

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図6:木材で覆われた内部空間

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図7:HEPAフィルタユニットにより最低限の気流と空気質を制御

足利赤十字病院におけるトライアルプロジェクト

現在開発中の仮設医療ブースは、足利赤十字病院において今年の秋に具体的なトライアルを予定しています。院内のカフェやエントランスホールにおける什器として「つな木」ユニットを実装し、同病院の講堂において防災訓練の一貫として医療ブースとして組み換える取組みです。

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図8:足利赤十字病院講堂レイアウト案

非常事態への備えに明日からできるリアリティを

Nikken Wood Labでは、自治体や民間企業とのオープンイノベーションにより、「つな木」を用いた多様なプロダクトの製品化に向けたトライアルプロジェクトを進めています。
その第一段となる本取組みですが、森林資源の保護や循環、そして命を助ける医療現場への支援につながることを心から願っています。

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図9:「つな木」システムを応用したドーム(現在開発中)


大庭

大庭 拓也
日建設計 設計部門
アソシエイト アーキテクト
「つくればつくるほど生命にとって良い建築」をマニュフェストに、都市・建築の木質化に従事し、その実証実験として「つな木」プロジェクト等を推進中。 社内に自主的組織「Nikken Wood Lab」を発足し、代表を務める。
有明体操競技場、選手村ビレッジプラザ、渋谷区北谷公園などを担当。
林野庁長官賞、グッドデザイン賞、JIA25年賞などを受賞。



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