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【企画物語】一律の宿題を廃止して見えたこと 子供たちの学びと働き方改革

岐阜市立岐阜小学校の藤田忠久校長先生を講師にお招きし、実施しました。今までの当たり前をゼロから見直すことができたオンラインイベントとなりました。

1,一律の宿題を課すことの意味とは

 
 日本全国多くの小学校で、宿題が子供たちに課されていると思いますが、その意味や効果を考えたことはあるでしょうか。
 複数学級ある学年の学級担任になると、学年主任が音頭をとり
「この学年では、このようにして家庭学習にとりくませよう。」
と、足並みをそろえ取り組むことがあるはずです。

また、小中連携の取り組みとして「この学区でこの学年の子供は家庭学習は○○分。」と決めているところもあるのではないのでしょうか。
 そのように一律に同じ宿題を課すことで子供たちが学んでいくことはどんなことでしょうか。今回のオンラインセミナーは、小学校で一律の宿題を見直すきっかけになりました。

2,一律の宿題をなくした先にある子供の学び

 本来、学級担任として、一番大切にしたいのは子供との関わりだと思います。しかし、全員に一律の宿題を課すことで、休み時間の多くが宿題を確認することに時間がかかり、子供たちとの関わりが弱くなるように思います。
 一律の宿題をやめることが、教師の子どもとの関わりにどんな変化があったのか。また、そのことで子供の学びがどのように変わったのか。そして、その動きをどうのように進めていったのか、実際のところを詳しく聞くことができました。                
                                                      

3,一律の宿題から「家庭学習」への過程

(1)2021年10月
 初任者の「子供たちと外で遊びたいのに宿題ノートの点検や添削で時間が取れない」という相談が一つのきっかけとなった。
(2)2021年12月
 学級懇談で「家庭の学習の見届けは、ご家庭におまかせできると有難い」というお願いをして保護者からの承諾(賛同)を得た。
(3)2022年4月
 最初の職員会で校長から「今年度から宿題と呼ばず『家庭学習』へと改める方針を打ち出した。⇒学習指導部会からも具体的な提案
 4月第3週に個人懇談を実施し、担任から補足説明を行った。
(4)2022年5月
 学校運営協議会でも賛同(承認)を得た。
(5)2022年6月
 転換直後は、不安や不満もあったため、「家庭学習カード」の提出と「家庭学習」の点検を各学級で行うことを共通理解した。
(6)2022年9月
 夏休み中に作成した「家庭学習の手引き」を全校児童に配布すると共に学校HPにも掲載。学校だよりでも、啓発を行った。
(7)2022年12月
 学級懇談会のテーマを全校共通で「家庭学習」とし、保護者間の情報交流や担任からの助言の機会とした。その結果、「我が家ではこうしているよ」という前向きな提案が聞かれるようになった。懇談後の学校だよりでも趣旨説明と協力依頼をお願いした。
(8)2023年1月
 学習指導部から、「家庭学習相談日」を設け、バランスを考えた「家庭学習」を助言するよう提案があった。キーワードは、『自ら進んで学ぶ力(計画・工夫)』でポイントは以下の三点。
【タイミング】=テスト前・予習
【定着】=ドリル・問題集
【発展】=創造的思考

4,「家庭学習」への返還後の様子や変化

◆親と選んだ問題集を何冊も積み上げたり、魚の三枚おろしを一人一台端末で動画に収めて紹介したり、運動会の綱引きのコツを調べてクラスメートに「やってみよう」と呼びかけたりするなど、ユニークな家庭学習も見られるようになった。
◆本来「家庭学習」の内容や方法を自分で考えたり親子で相談したりして決めて実行することで「進んで考える子」「自ら学ぶ子」に育つと期待して始めたが、学校での学びを発展させることで好奇心や探究心が高まる利点も実感するようになった。
◆教師(担任)は、子供と一緒に遊んだり、子供の話に耳を傾けたりする時間の使い方が保証されるようになった。また、なかなか定着しない子に対して、重点的に助言や見届けができるようになった。【※負担軽減と言うより教師の役割としての業務改善となった)


5,「家庭学習」への変換で見えてきた可能性

◆子供自身が、家庭での学習が楽しいと感じ、学習習慣が定着する。
◆子供の興味や関心が広がったり深まったりし、好奇心や探究心が高まる。
◆親子の対話が増え、相互理解や親子関係が深まり、保護者の自覚が高まる。
◆教員の果たすべき役割が整理され、児童理解や教材研究が進み、指導力が高まる。
◆「個別最適な学び」を進める上で、画一的な「宿題」は見直され、教師の指導も選択と集中が進む。
◆「協働的な学び」(授業)が充実し、令和の日本型教育の考え方に光が見える。
◆学校と家庭の役割が明確になり、子育て世代の働き方が見直される。
◆少子高齢化において、社会全体で子供を育てる共通認識となって、教育への関心が高まる。

6,参加者の声

○自分の必要感に合った話題で、とても勉強になりました。教員本来の仕事に立ち返るという意味で、子どもと直接関わる時間を大切にしたいと思いました。

○教師も保護者もこれからの教育について、未来からの逆算思考で考えていくことが大切であると言うことを思いました。

○取り組みのきっかけ、プロセス、効果と大変わかりやすく解説してもらえてとてもよかった。

○教師の働き方の文脈だけで宿題を出さない(家庭にお願い)とすると子どもたちの幸せにはつながりませんよね。大人も子どももwell-beingな社会の一員である、そして学校や家庭は子どもたちの幸せのために何ができるのか?と言うことを考えながら取り組む一つの具体をいただいたように思います。勤務校でも少しずつでですが、これまでの当たり前を見つめ直して進んでいきたいと思います。

○本日はありがとうございました。教師の役割とは何なのかを整理し、子供にとって価値のある活動を提供しようという願いの先が、一律の宿題廃止だったのだなと思いました。自ら学びを進める子ども、そして、学ぶ楽しさを実感する子どもが育っていること。それを実現するために、保護者には何度も、様々な方法や機会をもち説明していることも納得でした。子供が自らの学びを言語化できることを大事にしているというのが、今回、私自身の何よりの学びでした。ありがとうございました。

○先生のお話をおうかがいするまでは「家庭学習」は廃止すべきではないかと思っていました。ただ、「岐阜小の家庭学習」は全く違うものだということを知ることができ、先生にお会いできたことをとてもうれしく思いました。「家庭学習」を通して子どもと対話ができるのは小学校だけだよと言葉は、本当にそうだと思いました。言語化できているかどうかの基準がこの取り組みのポイントだと思いました。「授業」と「家庭学習」の循環もできる、この取り組みは、「岐阜小式家庭学習」とか別の名前をつけて、もっと広がればいいのにと思いました。

○私のクラスで、「宿題は廃止すべきだ」というテーマでディベートを行いました。子どもたちが調べ学習をする中で、岐阜小学校の事例と出会いました。その時は、「家で勉強することを排除する??」ということかと思いましたが、大きく違っていたことがわかりました。子どもたちの学びを、学校と家庭でも、一緒に見届けて向き合えるようにしていきましょう、ということだとわかりました。保護者の理解、職員の理解があってのことだと思いましたので、仕組みをどう作るか、ということが重要なのだと思いました。時間はかかるし、数年後を見越した取り組みかと思います。子どもの未来を語り合うためにも、非常に参考になりました。

○藤田先生の穏やかな雰囲気の中に、「これからの子どもたちが本当につける力、進む方向」について、ぶれない思いがあるのを感じました。「学びとは何か」「教師のすることは何か」を対話しながら、説明も尽くして進めていくことの大切さも学びました。私自身、意見の衝突を恐れ、前へ進めないことが時々あります。健全な衝突は、むしろ必要だと考えて、取り組んでいきたいと思います。子どもがキラキラした目で「学ぶって楽しい!」と言えるよう、がんばりたいと思います。今日はありがとうございました。

○今年度は、私も全員一律の宿題は課していません。「やっぱりそうだよなあ」と安心したり、「そこは足りてなかったなあ」とハッとしたりしながらお話を聞かせていただきました。藤田校長先生の「相談の機会にする」という言葉が印象に残ってます。この言葉から、子どもに「宿題」として課しているうちは、マイナスの関わりが増えてしまうことに気付きました。(間違いばかりだ。とか、どうしてやっていないんだ。など)一方で「家庭学習」では、プラスの関わりが増えることに気付きました。やっぱり「宿題」で子どもを追い詰めてしまうようなことはしたくないです。教師の本当の仕事・役割についても再考することができました。ありがとうございました。

○一律の宿題をなくすことで、これほど良い面が増えることは想像していませんでした。しかし、藤田校長先生の実践をうかがう中で、これは「ありだな」と頷いている自分がいました。  実際に自分の勤務する学校で可能かどうか、どのように保護者や先生たちに下ろしていくか、今一度考え、この取組を広げていこうと思いました。  藤田先生、今回は貴重なお話を頂き本当にありがとうございました。

○勉強になりました。期間を見るとあっという間に達成されているのにじっくり対話を大事にしながら進められているのが印象的でした。

7,終わりに

 月曜日の夜のイベントでしたが、30名の定員が満員となりました。多くの方が関心をもった話題、課題だと感じました。これからも、このような企画をどんどん行って行けたらと思います。
                              大賀重樹

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