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【実話】雨に濡れる2匹の子猫を拾った話

2019年10月20日、ちょうど台風19号が通り過ぎたばかりだった日の未明のこと。

 まだ少しばかり雨が残る中、私は近所を散歩していた。歩き慣れた散歩道で、一つ聞き慣れない音を聞いた。


くぅん、くぅん。くぅうん。


この辺はいつも野良猫がのさばっているからどこかの猫が鳴いているだけだろうと、またいつものように歩き始めた。
やけに甲高くて耳をつんざく声だった。

 30分ほど水たまりをぴちゃぴちゃと踏み鳴らしながら歩き、踵を返して自宅へ向かった。


・・・くぅん。くぅん。くぅうん。


まだ鳴いている。声が大きくなっていた。
その声に導かれるように、私はその声の主を探した。

潅木で覆われた草の茂みに足を踏み入れると、小さな白い生物と目が合う。

急に現れた私に身じろぎすることもなく、ただこちらを見ていた。


これが、わたしと子猫の出会いだった。

小さくて白い“それ”は、小さく震えながら私の差し出す手に乗った。

死にそうな顔で必死に爪を立てるさまが、たまらなく愛おしかった。

これを生かそうと決めた。


腹が減っていそうだったため、牛乳を買いにコンビニへ向かう。
道中、ほとんど誘拐犯と相違ない私の腕によじ登り、肩にちょこんと座った。

なんと警戒心がないのだろうか。

わたしはその子が落ちないように警戒しながらゆっくりと歩いた。


煌々と照らされるコンビニの前で、はじめてはっきりと姿を見た。

未だ小さく鳴き続ける声を聞いてか、コンビニの店員が外に出てくると、肩の猫を見るやいなや驚きの声を上げる。

私が事情を説明すると店員はミニパックの牛乳と小さなお皿をくれた。

嬉しかった。私への好意ではなく、子猫への好意のために行われた行為がとても温かかった。

つい数分前までだれにも見向きもされなかったひとつの物体が、今まさに世界の中に生きているという実感に包まれた。


そしてその温かさにそっと蓋をしたいがために、自宅という閉じられた空間へ歩を進めた。


・・・。


遠くに鳴き声。
さっき助けたはずの鳴き声がしている。

肩を見るとなんの用だと言わんばかりにこちらを向く白い猫。


その声は人の家の納屋の中からしていた。

あまりにも似通ったその二つを引き離してはいけない気がした。


今思えばその行動は私を犯罪者たらしめるのに十分だった。



2匹目は茶色だった。


2匹を家に持ち帰り、並べてみる。

きょうだいであることは一目瞭然だった。
どちらが兄でどちらが弟だろう。姉と妹だろうか。

オスはメスより肛門から尿道の距離が長いらしい。

そんなことを調べてしまうくらいには気持ちが浮ついていた。


こっちは白いからシロ、こっちは茶色いからチャイロかな。つまらないかな。

シロはひと回り小さいな。チャイロはすこし臆病なのかな。

シロはよく食べるなあ。チャイロは一旦慣れたらいろんなところが気になって動き回ってるなあ。



2匹とも、かわいいなあ。





気づいたら朝になっていた。


以上が、私が2匹の子猫と出会ったいきさつである。


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子猫を保護した私は何をしたか


子猫をアパートへ連れ帰るときに何を考えていたのかというと、正直何も考えていませんでした。

ただこの子らをどうにか生かしてあげたいという一心だった気がします。

わたしの選択肢は4つありました。

・親猫か飼い主を見つけて返す
・自分で責任をもって飼う
・知人・友人に飼ってもらう
・保健所に預ける


しかし、私のアパートはペット厳禁。
何かない限り、保健所に預けることはしたくなかった。

それならば、するべきことは分かっていました。


すぐにこの子らを育ててくれる人を探すこと。

そして、その人に最善の状態で受け渡すこと。


具体的に何をしたかというと、

〇子猫たちの状態を記録する
〇近隣に聞き込みをする
〇保健所と近くの病院に電話をする
〇インターネットで調べる
〇知人・友人にかけあって飼い主を探す


〇子猫たちの状態を記録する

まず、子猫を預かってくれる人のために、出会ったその時から私は子猫の健康状態を記録していました。

・いつどこで子猫を拾って、どんな状況だったか。
・どんなものを与えたか。どれくらい食べたか。
・何時に寝て何時に起きたか。

少し神経質だったかもしれません。初めての経験で、何か不備があってはいけないとおもい、すべてを記録していました。


〇近隣に聞き込みをする

次に、見つけた場所へ行き親猫がいないか探したり、近隣の住宅に聞き込みをしました。
もし親猫や飼い主が子猫を探していたら、返してあげるのが一番近い解決策でした。


〇保健所と近くの病院に連絡を取る

出来れば保健所には預けたくなかった。しかし、最悪の場合、保健所に預けることを選ばなければならない時が来るかもしれない。

その時のために、保健所に連絡を取りました。

そこで分かったことは以下の3つ。

・すぐに預けることができる
・毎月第1日曜日に譲渡会をやっているが、一時預かり金が1日700円もかかる。 ⇒ 殺処分までは数か月あいだが空く。
・ワクチンや感染症検査は保健所がおこなうが、個人で引き取る場合は実費で受けさせる必要がある。

病院に連絡はしませんでしたが、場所と営業時間は確認していました。


〇インターネットで調べる

オスメスの判別を調べたほかに調べたことは、主に猫を飼うために必要な環境。

子猫を飼ってくれるという人が見つかっても、子猫にとって幸せな環境が用意できないなら受け渡したくなかったのです。

・一生飼っていくだけのお金の余裕が必要。去勢代や病院代もかかる。
ストレスフリーで過ごすために、キャットタワーなど隠れられる場所を用意できると良い。
・ソファや壁が爪とぎでボロボロになる。
・大きめのトイレが頭数+1つ必要。
・鳴き声などが近隣の迷惑になる可能性があることへの理解が必要。


〇知人・友人にかけあって飼い主を探す

とにかく知り合い・友人に連絡をして、知り合いの知り合いにも話してほしいと伝えました。


以上、5つのことを行ないました。



結果、

私の心の優しい友人の女の子が、ぜひ飼わせてほしいと名乗り出てくれたのです。

他にも候補者はいたのですが、2匹とも飼ってくれるという方は他に居なかったため、彼女に決めました。

まもなく私のアパートへ迎えに来てくれて、無事引き渡しました。

子猫を拾ってから飼い主に引き取ってもらうまで、2週間かかりました。


はあ、良かった。

シロ、チャイロ。良かったなあ。良かったなあ。


何の声も聞こえなくなったダンボールの箱と無残に散らかったタオルケットを、しばらく片づけることが出来ませんでした。



その後・・・


本当に安心しました。自分ではどうにもすることが出来なかった非力さを感じるとともに、それでもよかったと心から安堵しました。


彼女は2匹に十分すぎるほどの愛情を注いでくれました。

それぞれとても似合う名前を付けてくれて、

動物病院へ検査に連れて行ってもくれました。
去勢するだけで10数万円。

病院の医師によると、2匹とも雑種で生後3週間程度。
シロはメスではなくオスで、チャイロはオスではなくメスでした。

おそらく同じ親の子どもだろうということでした。

また、シロは体が小さかったけれど、てんかんを持っていることが明らかになりました。


5ヶ月後、

受け入れてくれたお礼と、2匹の様子を見るために友人宅を訪れました。


見違えるほど大きくなって、

相変わらず仲良しでした。


私より何倍も大切にしてくれる人に引き渡せたこと。
これだけが、私が2匹のためにしてあげられた善でした。



捨てられた子猫を見つけたら何をするべきか


私は捨てられた子猫を見かけたとき、何も考えず保護しました。

しかし、もしあなたが捨て猫を見かけたとしたら、一度踏みとどまって考えてみてほしいのです。

『親猫が子猫を探しているかもしれません。あなたが子猫を保護しようとしたことで、親猫と子猫は一生会えなくなる可能性があります。親猫が子どもを置いて狩りに出かけることはざらにあります。よほど危険な状況でなければ、そっとしておいてあげることが、その子にとって一番幸せです。私は今でも、もし親猫があの子たちを探していたとしたら…と、今でも夢に見ます。』


『あなたはその子の一生を預かる覚悟がありますか。エサ代やキャットタワーなどの道具費、医療費、検査費。あなたが思った以上に、一匹の猫にかかるお金は多額です。』


『あなたがその子を保護し、自分で飼えないからといってすぐに保健所に預けるのはやめてください。あなたが拾ったことで、一時は命を取り留めるかもしれませんが、その先にあるのは殺処分です。それは、あなたが殺したのと同義です。』
※欠損や病気がなく、生後間もない子猫などの場合は引き取り手が見つかりやすいです。



わたしとシロ、チャイロのおはなしと、

あなたへ伝えたいことでした。

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