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王さまの本棚 85冊目

『この世界の片隅に』

こうの史代作/ACTION COMICS/双葉社

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これねーーー!こうの史代大好きなんですけど、今回は奇跡のロングラン上映に次ぐディレクターズカットの再上映でいちばん有名になったこの作品で。夫本棚から。

映画の雰囲気ももちろん大好きなのですが、原作は原作で、これがまた良いのよー!今ちょっと資料のために出してきたら、熟読しかけたわ、今夜読もうかな。

というわけで読んだんですが、やっぱり良かった……
今回こそ、全ての伏線に気づけたはず。リンさんの人生だけが不思議だったのですが、ああ、あのひとはあの時の座敷童子だったのか……知ってたけど、ちゃんと読むと本当にかなしい。

すずさん、ぽーっとしてるところは差し置いて、いや、わたしも大概ぽーっとした者なのですが、人生経験が少ないところにとても共感してしまう。人生経験が少ない故の戸惑いや、ストレスや、自分への期待やらやらやら……だって、夫がもともと好き合って結婚を考えていたひとが妓楼の女性で、周囲に反対されて別れているだなんて、ほんとどうしたらいいのかわからんよね……35歳になったわたしにも、わからん。ごめんね、すずさん。あなたの倍近く生きているけど(えっ……)力になれなくて。

そんなすずさんが敗戦に憤る場面も、なにも知らないまま死にたかったと思う気配の濃厚さも、全て繋がったひとりの人間の精神なんだと思うと、本当に深い描写のある作品。

大好きです。この世界がいとおしくなる。そんなマンガ。


そして追記。
この追記が書きたくて、ずいぶん長い時間(※1年くらい?笑)が経ってしまいました。びっくりぽんです。

カラストラガラさんとずいぶん前(これも1年位前笑)にこの作品についてお話していて、いろんな気づきを得ました。これから書く内容は、トラガラさんの意見と、触発されて自分が考えたことに合わさったものです。メモが古すぎて区別がよう分からなんだので、すみません……トラガラさん、訂正があったら教えてください。
トラガラさんとお話しするの、とても刺激的で楽しいので、ずいぶんご無沙汰してしまっていますが、また環さんと三人で夜中にひっそりお話しできたらうれしいです。
そういえば、これも私たちの真夜中インターだったよね。

では。

敗戦の場面、朝鮮旗が翻っていることにすずさんは気づきます。『暴力で奪ってきたから暴力に屈するのか』と。それまで当たり前に食べていたもの、着ていたもの、労働力。物資が足りない中、不便ながらも暮らせていたことについて、すずさんは、なんにも知らないまま死にたかったと独白します。己の罪を知らないまま。
私は歴史にとても疎いので(現代日本においてどう考えているかは別として)当時の日朝関係について全然知らないのですが、日本がアジア諸国において搾取する側であったことは(まだまだ知らないことが多すぎるとはいえ)知識として、なんとなく知っていて(この意識の低さも問題なのかもしれないです。)、ぐうう、これほんとうにすずさんという若くてぼんやり生活している(と言ったらひどいですが)人の、等身大で、厳しいセリフだ。と思ったのでした。これが出てくるの、このバランス、こうの史代凄まじいなあ。話を創ろうとしている者の身として勉強になるし、話を受け取る側の身としてつらい。

それから、水島さんとすずさんが一夜を過ごす場面。
周作さんが拗らせを全面に出しているよね!と話していました。
周作さんの拗らせとは、「妓楼の女性との恋を遂げることができなかった挫折感」「すずさんの初恋への嫉妬」「すずさんとの結婚に際し、自棄で言った条件ですずさんを巻き込んでしまったこと」すなわち「最初、すずさんは代用品であったこと」「すずさんへの想いが芽生えている自分を罰そうとすること」「前線へ出ておそらく帰らない兵隊さんである水島さんに対し、後方で働く文官である自分、という引け目」など。これはややこしいところで、すずさんが自分は代用品だと気づくのに比例して、周作さんはすずさんへの想いを募らせていきます。嗚呼擦れ違い、擦れ違い!

ところで、戦場へ向かう兵士に「妻」を「女性」として貸し出すのは、当時の風習としてあり得ることなんでしょうかね……あり得ないと思いたい。

ここまで書いて、こんどは映画のほうを見たくなってしまいました。
「この世界の(さらにいくつもの)片隅で」。いい映画です。アニメと侮るなかれ……!アマプラだと有料でした。有料でも……見られるなら……いや、でもどうせならブルーレイが欲しい……物質主義(ちがう)

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