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"生ける屍" ピエリ守山に見る、国内ショッピングモールのアフターコロナ展望 (#22)

かつて多彩な技数を誇った舞の海は「技のデパート」と称された。

彼の異名は、近現代日本において、いかにデパートやショッピングモールといった大型商業施設がその品揃えや機能の多様性を武器に躍進したかということを雄弁に物語っている。

しかし、いくら天下のショッピングモールといえど、そのどれもが即座に成功を収めてきたわけではない。

滋賀県にあるショッピングモール・ピエリ守山。当該施設は2008年に華々しくオープンしたものの、リーマンショックや、そもそもの立地の悪さ等が相まって長らく業績不振が続き、終いには「廃墟」とあだ名されるまでになってしまった。

(写真: ピエリ守山)

その客足の無さに数多くのテナントが逃げるように去っていき、オープン当初は200店舗ほどあったが2013年頃には3店舗ほどしか残っていなかったという。一時は、運営会社が民事再生法を適用するなど、あわやという場面すら見られた。

しかし、驚くべきことに最近になって「明るい廃墟」とまで言われたピエリ守山が神がかり的な復活を成し遂げたという。そのきっかけは不動産デベロッパー・サムティによる2014年のリニューアルである。

(写真: 劇的な復活を果たしたピエリ守山)

大規模な内部改造は利用者の回遊性を高め、大型商業施設の「壁」とも言われるリピーターの生産を後押しした。そして、徐々に人気が高まるピエリ守山に目をつけた数々の企業がテナント出店を決めたのだ。当時県内にはなかったH&Mなどの進出はその復活に大いに貢献した。

識者は2019年に出店した総合温浴施設「守山湯元水春」の存在が廃墟脱却の決め手の一つになったと話す。先の大改革で既にファミリー層など固定客がいたピエリ守山は次なる成長は一手はこれまでにない斬新なショッピングモールの形態の提案であると心得ていた。その結果生まれたのが、琵琶湖が一望できるという他に無い特色を持った温浴施設なのだ。そして、もうお分かりの通り、それは大成功であった。

(写真: 総合温浴施設「守山湯元水春」)

今や、県内随一のホットスポットになったピエリ守山。しかし、我々はこれを単なる経営に失敗したショッピングモールの復活劇としてのみ消化するべきではない。

悪童・ジェフ=ベゾス率いるAmazonを筆頭に「商業」はインターネット世界への移行を果たした。20~30代は、生活必需品のほとんどをECサイトで購入するという。一昔前はイオンの台頭が地元商店街を潰しているとして問題視されていたが、今日ではインターネットという、いかなる場所に店舗を構えていようとも影響を免れない軍勢が勢力を伸ばしている。

(写真: ジェフ・ベゾス)

そして、直近の状況で言えばコロナ禍において、ショッピングモールは経済的大打撃を受けた業種の一つだ。大型商業施設はその特色上、密になることが避けづらいとして多くの人々がその利用を忌避した。ただでさえ、ネットの台頭で斜陽に近しい情態だったにも関わらず、未知の感染症がとどめを刺した形だ。

今、苦境に置かれているショッピングモールにとって復活の指南書となるのが、廃墟からの脱却を果たしたピエリ守山なのだ。では、一体何が明るい廃墟を劇的に復活させたのか。

ピエリ守山はアスレチックや、先ほど紹介した温泉施設など、これまでに類を見ない大型商業施設の姿を提唱し続けている。これら二つの施設に共通するのは「体験の提供」である。そして、これこそが新時代でのショッピングモール存続の鍵なのだ。

多くの人が必要なものをネットで購入する時代に、同じものを入手するためにわざわざ商業施設は利用しない。「わざわざ」の壁を利用者に乗り越えさせるのは、何よりもその施設の特異性だ。そこでしか得られない体験・サービスに人々は惹かれる。ディズニーランドが良い例だ。

(写真: 他にない世界観の提供によって世界中から愛され続けているディズニーランド)

ショッピングモールはこれから、ある種の「テーマパーク化」は避けられない。しかし思えば、デパートやショッピングモールは生まれたその時から、多様性を持ち続けることが責務だったのだから、特段不思議なことではない。Googleが広告収入を目的に検索エンジンを運営するように、スーパーやアパレル店を利用してほしいならば、餌としての「特異な体験の提供」が必要不可欠となるだろう。

アフターコロナの時代では、それまでの常識は非常識になる。今、国内のショッピングモールは伝統的なスタイルに囚われず、斬新な形でに人々の心を掴み、地域活性化の「震源地」であり続ける覚悟が試されているのだ。

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【余禄】
本日の記事のテーマを決めるランダム単語ガチャの結果は「的外れ」と「ショッピングモール」でございました。なんでピエリ守山を題材にしたかというと、「的外れ」な経営で失敗した「ショッピングモール」だったからです。

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参考文献

- 上田真緒: 『30年後、日本は「明るい廃墟モール」だらけ!?』, 東洋経済オンライン, 2014年7月31日, https://toyokeizai.net/articles/-/43733

- 中河桃子: 『滋賀「明るい廃墟」が人気復活、なんで変わったのか?』, Lmaga.jp, 2020年7月12日, https://www.lmaga.jp/news/2020/07/135006/

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