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「君にしか見えない猫。」#完成された物語 ショートショートストーリー

彼女の部屋には猫がいる。と言っても家猫ではなく、時々遊びにくる猫。どこかで飼われているのは確かなようだ。首輪がついているというから。
でも。僕はその猫を見た人がない。わりと彼女の部屋に行っているのだが。

「ねえ。その猫だけど君にしか見えないとかじゃないよね。」
「それ、どういう意味。」

彼女は僕の腕から抜け出して眉をひそめている。僕は慌てて彼女を抱きしめた。

「嫌。だってさ。僕は一度もその猫を見たことがないから。つい。」
「ついって何。嘘ついてどうするの。猫のことで。」
「悪かったよ。君を疑ったわけじゃなくて。」
彼女は機嫌を悪くしたようで背中を向けたままだ。明日、機嫌をとらないとまずい。おかんむりだ。

彼は気づいたのかしら。猫のこと。夜の瞳としなやかで優雅な振る舞い。私をひきつけて虜にした。私は溺れたままだ。彼に抱かれながら思い出す。首輪でなくて指輪をつけた男の言葉を。

「君にしか見えないように来るから、心配しなくていい。」






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