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毒のある言葉と視点の毒の底にあるもの
「幸せそうな人を見ると、殺したくなる。勝ち組に見えたから」と電車内で起こった刺傷事件は昨年、現実に起こりました。
幸せそうでも、幸せでないかもしれない。勝ち組でないかもしれない。加害者にはそう見えただけ。本人や、その方を知っている人にはそうでないかもしれません。
事件には、事実と真実がありそれは複数で一致しないこともあります。立場によって、視座によって捉え方、心の在りようで、見え方が違います。
あのときそうだったけど、今は違うということもあります。
本書は、視点となる人物が複数います。第3者からみたもの、本人が語るもの、どこに真実があるのでしょうか。
レットクローバー まさきとしか
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家族が毒殺された居間で寛ぎ
ラーメンを啜っていた一人の少女。
彼女が──家族を殺したのではないか。
東京のバーベキュー場でヒ素を使った大量殺人が起こった。記者の勝木は、十数年前に北海道で起こった家族毒殺事件の、ただ一人の生き残りの少女――赤井三葉を思い出す。あの日、薄汚れたゴミ屋敷で一体何があったのか。
「ざまあみろと思います」
北海道灰戸町。人々の小さな怒りの炎が、やがて灰色の町を焼き尽くす――。
ヒ素という猛毒の他に、毒がいっぱいのミステリーです。まず、言葉の毒がすごい。これにやられて気持ち悪くなりました。相手を傷つけ、自分も傷つけています。親子だから、親だから、子どもに何を言っていいはずはなく、その度、心が死んでいて心は何度でも殺されています。
海道灰戸町という、閉塞的な地域社会の毒。この町に限らずどこにでもあるのかもしれない、と思うと怖くなります。地域格差、タワマンでの上階とそうでない階。
彼女たちでなくっても、怒りはだれでも抱えているし、「むかつく」「ざまあみろ」という暗い感情に動かされてしまうことだってあります。自分の中にも毒があります。
彼女たちの毒は、身を守るための毒でした。
心を何度も殺されたから。
殺されるより殺す。
自分のことで精一杯で、欲張りで自己中心的で欲望に忠実なだけ。
自分が生きるために。
はじまりはすべての人間の根にある幸せを望む心から生まれたのではないだろうか。
毒ばかりではなく、真実を求める雑誌記者の冷静な視点があることで優しさが加わり、解毒になっているのかもしれません。
レッドクローバーは、本書では赤井三葉のことですが、ムラサキシロツメクサで、ハーブティーとして用いられホルモンバランスの調整に効くそうです。
毒、ではありません。