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夏目ジウ 掌編・短編小説集

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これまでnoteに掲載した小説をまとめてみました。
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2023年8月の記事一覧

夏の忘れもの【掌編小説】

夏の忘れもの【掌編小説】

 「お客様、お忘れものにはお気をつけくださいね」
 或る夏の日、私は年配の運転士にそう言われた。夏になるとバス内の忘れ物が急に増えるらしい。その言葉はすっかり他人事だと思っていた私はフーンという感じでその声かけを気に留めることなく聞き過ごした。その翌日も、その次の日も私は通学で同じバスでしかも同じタイミングでバスに乗った。同じ年配の運転士から同じ言葉を掛けられた。そのうちに、少ししつこく感じるよう

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私の失くしたもの【掌編小説】

私の失くしたもの【掌編小説】

 夏の新幹線は感傷さを呼び起こす。
 数多くの子供の声、故郷へ帰省をする大人達の先祖を想う寂寥感を帯びた表情。それら全ては夏でなければ何とも思わなかったかもしれない。ただ例年以上の猛暑も相まって何か長く感じた。特に、あの車中では。

 毎年、長男として義務的に帰省することだけを考えていた。なぜならば、妹や弟の子供の成長を見るぐらいしか楽しみが無かったからだ。いつもは、東京から仙台までの約1時間半は

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