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親から虐待を受けた子どもは人生終わるのか⑤


“死にたい”感情との折り合い

 私は一瞬息をとめていた。
だが愛に対して明確な考えを持っている彼の“死にたい”という感情に対する考えが気になって、深く話しを聞くことに集中すべきだと判断した。

「死にたいと思ったことありました。つい最近彼女が自殺しちゃいました。親の言葉に縛られてて精神病んじゃって飛んじゃった。」

 恋人の彼女とは社会的養護経験者が集まる交流会で知り合ってお付き合いすることになった。
彼女も虐待経験者だった。親の言葉に呪われたように囚われていたそうだ。過干渉な親に厳しく育てられ、暴力を受けていた。付き合う時から少し精神を病んでいたのだが、徐々に症状が酷くなり自宅に塞ぎ込むようになった。
 亡くなる前の一ヶ月は「死にたい」という彼女の発言などから危機感を感じ、彼女のアパートに泊まり込む生活をしていた。彼は施設に帰らず彼女のアパートに帰ったり、東京で仕事した後茨城県の施設に一時帰宅し、東京の彼女のアパートに戻るといった生活をしていた。彼女ができる限り一人にならないように衣食住と共にした。

 ある日彼女のアパートに帰ると、ブルーシートで囲まれ周りには沢山の警察官とパトカーが停まっていた。
彼女は自宅のアパートの9階から飛び降り自殺していた。
 後から知ったのだが、彼女は亡くなる前に自殺未遂をしていたことを友人に相談していた。彼には心配させまいと隠していたそうだ。

「自分も死にたいなって思った。凄い一緒にいたからこそ、僕が殺した要因だな。絶対もっとできたはず。もっとしてあげれたよなって。もっと自分の経験を積み上げてきてたら何か対応できてただろうなって。」
 今の彼は、悲しみを引きずっているようには見えなかった。目に見えてという意味でだが。
この感情にどうやって折り合いをつけたのだろう。
「死にたいって思ってるな自分。って考えた。だけど死んだら終わりだから。普段やらないことをやって過ごした。夜中に海行ったり山行ったり、お酒を飲んだりタバコを吸ったり。あとなんだろう…。ポイ捨てしました。捨ててひろって、また捨ててひろって、って感じを繰り返した。意外とこれが結構良かった」
 ポイ捨てをする彼を想像したら、少し笑ってしまった。しかしこれらの行動や時間の経過によって、この出来事を自分の成長に繋げようと考えるようになった。落ちて何を得るか、に思考がシフトしていったそうだ。
彼はこの出来事に対して乗り越えたと認識しているのだろうか。


 虐待のことに話を戻す。彼は自分自身の虐待の過去について“乗り越えた風だな”と認識している。
「フラッシュバックすることがあるから、乗り越えた風かな。少し気持ち悪くなるぐらいだから全然大丈夫。ただ、フラッシュバックが起きても内容を覚えていないから自分は“解離”かもしれない。フラッシュバックが起きた時は、今自分は悲しいと感じ傷ついていると認めるようにしてる。自分の感情を認めるのを大事にしてる」
彼が言っている“解離”とは、解離性障害だ。ストレスや心的外傷が関係していると考えられていて、特定の場面や時間の記憶が抜け落ちていたり、自分の体から抜け出して離れた場所から自分を見ている感覚に陥ったり、フラッシュバック等の症状がある。
彼には概ね当たっているとも思えた。


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