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小須戸ARTプロジェクト2024、参加作家の活動紹介

小須戸ARTプロジェクト2024は、新潟県新潟市内、小さな町の小さなアーティスト・イン・レジデンス事業です。

今年も3名の参加作家が決定、先月の投稿でそれぞれの作家のプロフィールや活動プランを簡単に紹介したところです。

8月になり、作家が次々に地域を訪れ、それぞれの活動を進めていきました(現在活動を進行中の方もいます!)。

今回は、3名の参加作家の活動の様子をお知らせしたいと思います。



光延 咲良 Mitsunobu Sakura

長岡市在住の光延咲良さんは、8月10日から25日にかけて町屋ラボに滞在しました。

毎日その日のおやつを食べるための匙や小皿を制作し、3時に町屋ラボにいる人と一緒におやつを食べ、その匙や小皿、おやつの記録を”匙日記”として成果発表に繋げます。

町屋ラボでの滞在制作

滞在制作中は、町屋ラボに金属を打ったり削ったりする音が響いていました。鍛金とは材料や完成品は違うのですが、ラボの建物はかつて桶を作っていたという歴史もあり、こうした作業場的な使われ方も違和感なく、建物の雰囲気にマッチしていたように思います。

町屋ラボでの制作の様子

おやつの時間とミニマルシェ

滞在中、光延さんは毎日3時頃になるとおやつを食べます。

おやつは、小須戸周辺の名物(六斎市で買った果物、新津の三色だんごなど)を光延さんが調達してきたり、お客さんが持ってきたお土産のスイーツをいただいたり。

約2週間の滞在で、いろいろな方といろいろなおやつを食べたことでしょう。おやつの記録は、ぜひ、展示の”匙日記”をお楽しみに!

初日のおやつ、水羊羹とカルピス

滞在中の土日祝日には制作したものを販売するマルシェも開催しました。

鍛金で制作された匙やマドラー、指輪に加え、新潟・燕三条地域の伝統工芸である鎚起銅器のおちょこなども並べられました。

こういった販売イベントも、様々な方に作品に触れてもらうきっかけになりますね。

ミニマルシェの様子
町屋ラボ正面に掲示されたスケジュール

光延さんは会話の中で、自分が作っているものは美術品ではなく工芸品で、道具として普段使いされることに価値がある、とおっしゃっていました。
”おやつの時間”は、普段あまり工芸に馴染みのない方にも、工芸品=道具に触れてもらう機会としての意味も持たせているそうです。

成果発表の際にはそれらを展示することになるので、“匙日記”を“道具”として使ってもらうことは難しいのですが、そうした考えをふまえて、光延さんの作品を使った飲食を楽しめる企画も調整中です。詳細はまた別途!

展示と合わせて、ぜひ工芸に触れてみてください!

作家について 光延 咲良

福岡県久留米市出身。2023年に長岡造形大学大学院を修了し、現在は長岡造形大学で教務補助職員として勤務している。鍛金技法による人と関わるための「うつわ」をテーマに、マルシェや芸術祭などで作品展開を行う。


大川 友希 Okawa Yuki

大川友希さんは、昨年度に地域を訪れ、小須戸縞を中心とした地域の歴史をリサーチしました。今年度はその成果発表を予定しています。

作品の制作イメージは昨年度のリサーチレポートに掲載されていますが、地域で収集した古着を重ね、空間に柱のように林立させる予定です。

大川さんは、8月25日、26日に一度地域を訪れ、この作品の制作に向けて使用する古着の募集、そして展示会場の調整を行っていきました。

作品のイメージ(大川友希リサーチレポートより)

古着の募集

作品の制作には、大量の古着を使用する必要があります。また、なるべく小須戸地域で収集することに、作品としての意味があるのもポイントです。

プロジェクトは小さな活動ですから、どの程度集まるか不安もありましたが、ひとまずチラシなどを作成し、大川さんが小須戸に来る前日、8月24日を一旦の締め切りとして、古着の募集を行ってみることにしました。

古着募集のチラシ

写真ではわかりづらいですが、締め切りまでに、枚数にして250~300枚程度の古着が集まりました。

大川さん曰く、小須戸で集まった古着は黒や茶系統の色のものが多い、とのこと。

地域により好まれる服の色に特徴があるのか、それとも提供者の年代に偏りがあるのかはわかりませんが、そうした傾向がみられるのはおもしろいですね。

集まった古着たち

その後大川さんと相談し、もう300枚ほど古着を集めたい、と考えているところです。

受付期間も9月16日まで延長、町屋ラボを含む小須戸の協力店舗3か所と、三条市の1か所で古着の回収をしていますので、お近くで不要な古着をお持ちの方は、ぜひご提供いただき、作品に参加していただければと思います。

詳しくはプロジェクトWebサイトをぜひご確認ください!

会場の調整・決定

大川さんの展示の実現にあたり、もう一つの調整事項は、展示会場をどこにするか、です。

会場選定のポイントは、古着の柱を支えられる構造を組みやすいという作品の性質的な問題に加え、なるべく小須戸の地域性を感じられたり、空き家などの空間資源の活用に繋げたいという事務局側の希望も加わります。

7月頃からいくつか候補を挙げて調整を進めていましたが、今回は写真の建物、これまで活用したことのない新たな物件に決まりました。

なお、特に意図したわけではないですが、物件はメリヤス屋さんだった方が所有しています。織物から編み物への繊維産業の変遷と関わりがあり、小須戸縞に着目した大川さんの作品と相性の良い物件だと思います。

大川さんとの展示会場の下見の様子

会場の詳細はまた追ってお知らせします。

作家について 大川 友希

彫刻家。2012年愛知県立芸術大学/ 彫刻専攻卒業。古着や布を素材に記憶や時間をテーマに作品を制作。近年では、古着を用いたワークショップや地域の歴史や交流から作品を制作。奥能登国際芸術祭2020+、瀬戸内国際芸術祭2022出展。


森 健太郎 Mori Kentaro

福島県在住の森健太郎さんは、8月27日に小須戸を訪れ、新潟の食文化についてリサーチを行っています。

郷土食や保存食を中心とした地域の食文化に関心を持たれており、小須戸という狭いエリアではなく、新潟市あるいは下越地方程度のある程度広範囲を対象としてリサーチ活動を進めています。

“食文化”への着目

近年では、文化芸術基本法の中で”食文化”が取り上げられるなど、食も文化の範疇に入ってきています。一方で、食文化の成り立ちには様々な要素が絡み合っており、複合的な視点からの調査が求められます。

歴史的背景や地理的条件、産業構造や物流の変化等の要因はもちろんですが、例えばご当地グルメなどを扱うのであれば、そこにまちづくりや地域活性化の動きなども絡んできますし、ブランド化など政策的な思惑も加わって来るでしょう。

新潟周辺においては、歴史的には稲作を中心とした農業生産に加え、江戸時代には北前船を中心とした物流がありました。

小須戸図書室で借りた資料に目を通す森さん

例えば、小須戸銘菓として知られたおか免菓子などは、越中・富山から製法が伝わった、と言う話も伝わっています。小須戸も年貢米の集積地であり、船着き場があり、栄えた町ですから、舟運を通してやはり人や情報の行き来があったのでしょう。

そんなこんなで森さんのリサーチは現在も進行中です。
森さんが今回の滞在を通して“新潟の食文化”のどの部分に着目し、それがどのような作品の構想に繋がっていくのか、目が離せません。

葛尾×小須戸 AIRを語る トーク&交流会

森さんは、アーティストとして活動する一方で、福島県葛尾村でKatsurao Collectiveのディレクターを務めています。

Katsurao Collectiveは、小須戸ARTプロジェクトと同じくアーティスト・イン・レジデンス事業(Katsurao AIR)も行っており、森さんはその運営側として動かれている、という一面をお持ちでした。

小須戸とKatsurao AIR両方に参加する作家が居たり(三本木歓さん、鮫島弓起雄さん、大川友希さん)、あるいは新潟市中央区のゆいぽーとAIRでも、Katsurao AIRと参加作家の重複があったりします。

こうしたことから、プロジェクトの運営側としては、身近なAIRのように感じ、興味を持っていました。そこで、森さんの小須戸来訪と合わせて、Katsurao Collectiveについて紹介してもらうトークイベントを企画したのです。

トークイベントのチラシ

当日は、新潟市周辺でAIRに関心をお持ちの方(それほど多くなく、ほぼ知り合いですが)が集まり、こぢんまりとしつつも良い交流会になったのではないか、と感じています。

トークイベントの様子

トークイベントの詳細な内容はまた改めて別記事でまとめるかもしれませんので、ここでは省略しますが、ザックリとした紹介だけ。

葛尾村は、東日本大震災による福島第一原発の放射性廃棄物飛散の影響を受けた地域です。Katsurao Collectiveは、東日本大震災の被災地・福島県葛尾村の復興の動きの中で活動しており、移住促進事業の一環として、アーティスト・イン・レジデンス事業を含む様々な交流事業を行っているそうです。

東北に限らず、被災地の生活再建やその後の復興にアート、アーティストがどのように関われるのかについては未だ手探りな部分も多いと思います。そんな中で、地域の中に常にアーティストやクリエイターがいる状態を生み出すことをめざして動く現場の情報を、トークイベントではお聞かせいただきました。

トークイベントの様子

Katsurao Collectiveについて詳細を知りたい方は、Webサイトをご覧ください。

作家について

福岡北九州市生まれ。大学卒業後から現在に至るまで、アート活動が社会にもたらす価値について考察と実践を行ってまいりました。現在は、福島県の原発被災地域を拠点に、 人々が生活を再建するこの地で合意され、形作られるアートの形について考察しています。


プロジェクトとしての新たな試みも

参加作家の活動紹介、いかがでしたでしょうか。

プロジェクトとしても、毎回の事業の度に新たな視点を取り入れたり新たな試みをしていきたいと思っています。

具体的には、光延さんの滞在中のマルシェの開催、大川さんによる新たな会場の活用、森さんのトークイベントなどは、プロジェクトとしての新たな試みでもありました。

その他にも、運営面を含め新たな動きをいろいろとしていますし、それがその先の何かに繋がると良いな、と思っています。

よろしければ引き続き、WebサイトやSNSなどで、プロジェクトの情報をチェックしていただければありがたいです!


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