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#ミステリー小説部門
友と呼ばれた冬~最終話
「その所長・・・・・・前所長の千葉だが、あの男がタクシードライバーをあれほど嫌っていたのには理由があった。千葉の前職、正確にはおたくの本社の経理部で働く前のことだが」
千葉が本社から新宿営業所に左遷された話は梅島から聞いた覚えがあったが、それ以上の千葉の過去を俺は何も知らなかった。
「もう15年以上も前の話になる。千葉は奥さんと二人でドライブ中に、居眠り運転のタクシーに追突されて多重事故に巻
友と呼ばれた冬~第47話
パソコンを回収した郷田が二人の元へ駆け寄って合流した。
くそっ、郷田め。知っていたんだな。
郷田はパソコンを誇らしげに梅島の横に立つ男に渡そうとしたが、平手で殴られて頬を抑えた。
「なっ?タケダ!?」
「名前を出すんじゃねぇ!簡単に娘を返しやがって!」
怯えた千尋が俺の後ろに隠れる。
千尋だけでも逃がす。俺は覚悟を決めた。
郷田とタケダが揉めている隙に、胸ポケットから煙草のパッケ
友と呼ばれた冬~第46話
家からパソコンを持ち出して千葉の車に乗り込み新宿に向かったのは19時半過ぎだった。
カーナビを見ると首都高速はところどころ渋滞していた。入谷から入ると渋滞している銀座を経由することになる。
両国橋ジャンクションはまだ渋滞していない。俺は向島から首都高速6号線に入り箱崎経由で新宿へと向かった。
千尋が無事で居ることを祈りながら事故や違反を起こさないように慎重に運転をする。この時間になって
友と呼ばれた冬~第45話
成田と二人がかりで守衛を説得していると、車内から美咲が叫んだ。
「真山さん!あそこ!」
美咲の視線を追うとコンテナの横で倒れている人影が見えた。
「乗って!」
俺が助手席から乗り込むと同時に、美咲がアクセルを踏み込んだ。
「「待て!」」
成田と守衛の声が同時に聞こえたがすぐに後方に消え去る。
ヘッドライトに浮かびあがった人影は微動だにしていない。
美咲が真横でぴたりと止め
友と呼ばれた冬~第44話
あれから郷田の電話は鳴らなかった。
大野は全ての始まりだったあのクレームの日のことを思い出していた。
あの日、成田を送り届けたらそのまま仕事を切り上げて帰庫するように、千葉から指示を受けていた。
事務所に入ると千葉の姿が見当たらなかった。当直の事務員に聞くと「応接室だ」と言われたので行ってみると、郷田と千葉が備え付けのパソコンの画面を見ていた。
「ノックくらいしないか!」
ばつの
友と呼ばれた冬~第43話
「瑞穂ふ頭は確か大野が迎車で向かった場所だったな」
成田が先ほど話したことを思い出したのか、そう聞いてきた。
「はい。あの日、1時間ほど瑞穂ふ頭で停車しています。千葉の車が向かうなら心当たりはそこしかありません。一か八かです」
10分程で「東神奈川」出口から首都高速を降りた。「神奈川二丁目」の交差点を右折すれば瑞穂ふ頭まで一本道だ。
千葉の車は生麦辺りを移動していた。PEUGEOTのカ
友と呼ばれた冬~第42話
俺は成田から聞いた情報を共有すべく、梅島に電話を入れた。
「もしもし」
背後が騒がしい。会社には居ないようだ。
「梅島さん、いま大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。歌舞伎町に来ている。郷田の行きつけの店の手掛かりを探そうと思ったんだが、横文字の店がほとんどだ」
「成田さんから店の名前を聞きました。エンブレイスです」
「エンブレイス?わかった。成田が出て来たビルに行って確認してみよう」
俺
友と呼ばれた冬~第41話
「誰だか知らないが目的はなんだ?」
俺はあくまでも惚けた。できるだけ郷田の証言を引き出したかった。郷田は暫く沈黙した後、言った。
「映像を見ていないのか?」
疑心暗鬼になりかけている。
「映像?なんのことだ?」
「とぼけるな!お前がパソコンを持ち出すところを見ていたんだぞ!」
やはりあの場に居たのは郷田だった。
「パソコンは持っているが、壊れていて動かなかった」
「・・・・・・元
友と呼ばれた冬~第40話
「そういえば・・・・・・」
成田が灰皿にタバコを押しつけながら話し始めた。
「タバコを吸おうと外に出ようとした時に、大柄な男が運転席側の窓を叩いたんだ。タクシーの行燈が赤く点滅していたそうだ。SOSボタンを押すとあぁなるんだったな。それを見て『運ちゃん、どうした?大丈夫か?』と後部座席の私に凄みながら大野に声をかけたんだ」
「筋ものですか?」
「どうかわからない。物腰は柔らかかったが油断で
友と呼ばれた冬~第39話
どこからか音楽が聞こえてきた。この音。何の曲だったろうか?
そうだ、昔流行った海外ドラマの曲だ。懐かしい。
あいつと二人で毎週見ていた。
「まさかあの人が裏切り者だったなんて」
って、あいつはショックを受けていた。
千尋はまだ小さかったから覚えてないだろうな・・・・・・。
亡き妻と千尋の顔を思い浮かべた大野の頭に正気が戻りつつあった。
違う。
電話だ。あれは郷田の携帯電話
友と呼ばれた冬~第38話
「この事を話すのはフェアじゃない気がするが、あなたは信用できそうだ。どうだ?みさき」
『みさき』と呼ばれた女性が、本から顔を上げて成田を睨んだ。
「真山さんに失礼よ、成田さん」
成田は珍しそうな顔をして美咲を見ながら訳知り顔で頷いた。
「おまえが初見でこれを出すのは珍しいからな」
俺はなんのことだかさっぱりわからず成田を見た。
「美咲は幼い頃からこの店でたくさんの客と出会ってきたか
友と呼ばれた冬~第37話
「この前の男とは、そのことだったんですね」
「あぁ、そうだ。これを見てくれ」
成田の着信履歴を見ると、12日の20時04分に確かに大野の携帯電話からの着信があった。
「番号は間違いないか?」
「はい、大野の番号です。どんな内容だったんですか?」
「背後が騒がしくて聞き取りづらかった。私が何度も聞き直すと興奮気味に『改めて日時は連絡するから金はきちんと用意しておけ』と、怒鳴ってきた」
「大
友と呼ばれた冬~第36話
きっかり3時に成田が店に入ってきた。
「急に降ってきたな、休み時間に悪いな」
「一度や二度じゃないでしょ」
成田は顔を緩めたが俺を見ると険しい目を向けながら向かいの席についた。
地味なスーツを着込んだ成田は、映像で見た印象とは違って見えた。役人らしい厳格さが目元に刻まれているように感じられる。だが先ほど店の女性に見せた表情には、人の警戒を緩めるような人懐っこさが見えていた。
「真山さ
友と呼ばれた冬~第35話
「うちの営業所のタクシーを選んで乗っていたのか」
「ドライバーまでは選べなくても、この方法なら特定の会社の特定の営業所のタクシーに乗車することは可能です」
営業所から近いエリアで仕事をするドライバーは多い。出庫してすぐに稼ぎ場所に到着でき、帰庫時間ギリギリまで粘れるからだ。
歌舞伎町や西新宿エリアで充分稼げるのに、わざわざ銀座や六本木に時間をかけていく必要はない。
新宿営業所からなら歌舞