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友と呼ばれた冬~第41話

「誰だか知らないが目的はなんだ?」

 俺はあくまでも惚けたとぼけた。できるだけ郷田の証言を引き出したかった。郷田は暫く沈黙した後、言った。

「映像を見ていないのか?」

 疑心暗鬼になりかけている。

「映像?なんのことだ?」
「とぼけるな!お前がパソコンを持ち出すところを見ていたんだぞ!」

 やはりあの場に居たのは郷田だった。

「パソコンは持っているが、壊れていて動かなかった」
「・・・・・・元探偵の割には大したことないんだな。まぁいい、パソコンを返してもらおうか」

「返せって……。あれはあんたの持ち物なのか?大野が盗んだと言っていたが、どういうことなんだ?」
「うるせえな。お前が質問できる立場じゃないのがわからないのか?黙って返せばいいんだよ!」

「返せば千尋は戻るんだな?」
「あぁ、娘は返す」

 娘は?

「大野の居場所も知っているのか?」
「さぁな」

 郷田の病的な笑い声が聞こえてくる。

「俺は大野の失踪の手掛かりが欲しくてパソコンを持ち出しただけだ。あんたに必要な物なら返す。悪かった。せめて大野が無事かどうかだけ教えてくれないか?」
「泣かせるじゃないか、おまえらそんなに仲良しだったのか?」

「数少ない同期だから気になるだけだ」
「気持ち悪いな。なにが同期だよぉ!」

 異常なまでの反応だ。あまり興奮させると千尋に危害が及んでしまう。

「頼む、教えてくれ。大野は何処に居るんだ?」
「心配するな、まだ生きてるだろうよ。ちょうど餌の時間だ」

 少なくても大野は生きている。
 だが、餌の時間だと?
 俺は必死で怒りを押さえた。

 冷静に。
 郷田の元には居ないということか。そもそも郷田はどこからかけているんだ?
 郷田の背後はほぼ無音だったが、わずかなエンジン音が聞こえている。車で移動?いや、走行音は聞こえてこない。

 郷田が苛立ちを隠さずに言ってきた。

「おい!聞いてるのか?」

 これ以上、引っ張るのは難しい。

「聞いている」
「新宿中央公園の公衆便所。わかるか?」

「あぁ。いくつかあるが何処のだ?」
「熊野神社の近くだ」

十二社じゅうにそう側か?」
「そうだ。今夜21時にパソコンを持ってそこに来い」

「一つだけ頼む。千尋の声を聞かせてくれ」
「ドラマのような台詞じゃないか。まぁいい、そういうのは嫌いじゃない」

「真山さん!」

 すぐに千尋に代わった。郷田と千尋はやはり一緒に居る。

「大丈夫か?心配するな、必ず助ける」
「ごめんなさい!私、」

 千尋から電話が取り上げられた。

「俺も台詞を言わないとな。警察には知らせるなよ、お前一人で来るんだ」
「わかった」

 電話を終えボイスレコーダーを止めた。郷田が大野の監禁と千尋の誘拐に絡んでいる証拠は録れた。

 もしかしたら千葉の車に郷田も千尋も乗っているのではないか?

 GPSアプリを立ち上げて千葉の車の位置をもういちど確認してみた。
 携帯電話の画面上に地図が表示された。

 千葉の車の位置は首都高速中央環状線の八潮辺りを指している。ちょうど首都高速の山手トンネルを出た辺りだ。位置表示されなかったのはトンネル内を走行していたからだったのだ。

 成田が何か言いたそうにしていたが、俺は千葉の車が向かう方向を確認したかった。
 そのまま位置情報の更新を続けると、大井が地図上に見えて来た。神奈川方面へ向かって移動しているようだが、首都高速を走行している割には移動速度が遅い。

 渋滞しているのだろうか?首都高速の渋滞はひどい時はまったく動かない程に詰まることはある。走行音が聞こえなかった可能性は充分にあった。
 
 携帯電話から目を離すと成田が心配そうな顔で話しかけてきた。

「ただごとじゃなさそうだな」

「大野の娘が郷田に捕まりました。映像と引き換えだと・・・・・・」
「それはもう恐喝未遂どころじゃない!立派な犯罪だぞ!早くその子を助けないと!」

 わかっていた。だが大野と千尋の二人ともカードを取られた今、俺は大胆に動くことができなくなっていた。

「今夜21時――今から4時間後に新宿で郷田と会ってノートパソコンと大野の娘を交換します」

 成田がタバコを咥えて火をつけた。BGMの消えた店内にジッポの金属音が吸い込まれていく。


「わかった、私がそれまでに金を用意する。郷田は金が入れば満足だろ」
「その必要はありません。一度金を払ったら郷田はあなたが破産するまで強請り続けますよ。もし千葉が絡んでいるなら、あなたの立場も悪くなる」

「千葉も絡んでいるのか?」
「まだわかりません。郷田は車内から電話をしてきたと思われます。千葉の車に同乗している可能性はありますが断定はできません。千葉は恐らく首都高速でこちらに向かってきています。車に発信器を取りつけてあるんです」

 成田に聞かれる前に俺は言った。
 目の前のボイスレコーダーと俺の顔を交互に見ながら成田は驚いた顔をしていた。

「千葉の車が停車したらそのアプリ?で位置がわかるんだな?」
「はい。ただ誤差はあります。それに千葉の車を目視して追尾しないと、車を降車したあと、どこに行ったのかは確認できません」

 17時近かった。家に戻りパソコンを持ち出して新宿に向かうには1時間半後には動き始めなければ間に合わない。

「大野の娘を助けるには映像を渡すしかない。だが郷田に映像を渡してしまったらまた脅迫されるのではないのか?」
「郷田が頑なにノートパソコンを返せと言うのは、大野の細工に気づいていないからです。いずれにしてもノートパソコンは壊れていて起動しません」

「そうか。ノートパソコン自体に映像が保存されていると郷田は考えているんだな。実際はUSBメモリに保存されている。危ない賭けだが時間は稼げるか」
「はい。とにかく千尋を助けることが最優先です」


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