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(ミステリーホラー)混沌の化神 -5

2000年12月28日 16:20

お昼すぎに小雨が降ったことで少し冷え込みが増したような気がする。
まだ水滴をぱたぱた落とす木立の側の、かろうじて人がつけた轍を歩きながら、子供の頃の記憶を反芻していた。
少し濡れた土や、木々の匂いもそれを促す材料となっているのだろうか。

思えば、ここを歩いたのはずいぶんと小さい頃だけだったような気がする。
この道の先は、道としてはやがて完全な獣道に行き当たるのだが、それは子供の好奇心や冒険心がなければそうそう赴こうとは思わない、本当に森以外は何もない場所なのだ。

このまま適当なところで引き返そうか。
あるいは何故この道を自分が歩こうと思ったのか、自分でもよくわからない。昼食にとったなつかしい定食の味に誘われたのか、森林浴でもしたかったのか。
元より独りで考え事をする時によく意味なく往復していたような記憶もある。
そんなことを考えていると、少し傾斜のある坂を登った先に獣道が見えてきた。

既に日は落ちかけ、辺りは薄暗い。このまま獣道の入口まで行って、Uターンして帰ることにした。

この道は左側は開けていて、誰のものかは分からないが休耕畑が広がっている。
右側はというと完全にうっそうとした森林で、突き当たりのかろうじて人が通れそうな道が、少なくとも知っている範囲でその森林への唯一の入口となっていた。

獣道まであとおよそ30mというところで、ふと右に目を引く物が視界に入った。
木々の隙間を縫うようにして見ると、隙間の遠くの方にうっすら大きな岩のような、あるいは何かの壁なのか、灰色のかたまりがかろうじて見えた。

刹那、体中を痺れるような重い感覚が突き抜ける。頭が重い、とても立ってはいられない程の立ち眩みが亜矢子を襲う。
なんとか元来た道を這い戻ろうとする。
これ以上、あそこに近寄りたくない、本能が告げていた。
腕だけで身体を引きずるように、必死で進む。
すると遠くのほうで誰かの声がする。

かすかに聴こえる誰かの声に祈るように、亜矢子はその場で気を失った。

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