(ミステリーホラー)混沌の化神 -13
13:20
「そろそろ、いい頃合いか…。」
亜矢子の家から100m程先の曲がり角で座り込んでいた馬場は、整理のつかない頭のまま立ち上がると、彼女の家へ向かって歩き始めた。
ランチの後、亜矢子と別れてから今の時間まで特にすることもなく、馬場は集落の周辺をひたすら散歩していた。
時間があったためどうせなら隅から隅まで周れたらと思い歩き始めたのだが、みたところ方角まではわからないものの、亜矢子の家の裏手が森でありそこが集落の端と言えそうだった。
また、亜矢子の家の前で道は途切れており、その道なりに数軒の家があるだけであったため、まずは亜矢子の家の前の道をまっすぐ戻り、突き当りまで行ってみようと考えた。
たまにある民家をそれとなく確認しながら道を進むと、歩き始めてほんの2~300m程だろうか。ぽつぽつとあった道沿いの民家はなくなり、右手に森、左手には休耕畑のような開けた土地が見える坂道に差し掛かった。
「ああ、ここひょっとして……」
季節柄涼しくはあるものの、普段完全に運動から遠ざかった生活を送っている彼はすでに額にじんわりと汗をにじませ、ため息と同時に小さくつぶやくと、昨夜の亜矢子の話を思い出していた。
今登りかけている坂道が、その話にあった彼女が倒れた場所の道の特徴と完全に一致していたのだ。
彼女の話によるともう少し登ったところで左手の休耕畑のさらに左奥に……やはり、見るからに木造の古そうな、平屋にしてはかなりの広さがありそうな家が見えた。
つまりは、本日亜矢子と訪れる予定の青山邸である。
どうやら話によると、青山家は現在年老いたご夫婦のお二人でお住まいとのことだったが、今は家の外に人の気配はなさそうだ。
ふと、どうせ後で訪れるのであれば軽くご挨拶だけでもしておこうかとよぎったが、その刹那、前方にみえる現象に目を奪われた。
道の突き当りに獣道のような、かろうじて人が通る為の道のようにもみえる森の入り口がある。
それが今目線の先で起こっている"現象"の少し向こう側に見えているのだ。
これまでは森に沿っている道とはいえ、せいぜい落ち葉が軽く散っている程度だったのだが、その森の入り口の少し手前の道の真ん中辺り、茶褐色の鳥の羽のようなものが舞っている。
いや、舞っているという表現が正しいのか、巻き上がっているという表現が正しいのか、いずれにせよ異様なのはその量である。
何らかの鳥がいて殺されたのか、はたまた他の鳥と喧嘩でもしたのか、と考えるのが自然だと思うが、明らかにそんな様子ではない。
不自然なまとまった量の羽が細く、そしてきれいに渦を巻き、目測で2m程度舞い上がっているのである。
つむじ風、あるいは何かのハリウッド映画で見た記憶があるハリケーン、それを彷彿とさせるあの渦が、羽だけをきれいに巻き上げている。
いったいこれは何なのか。
今まで見たことのない光景、明らかに自然の現象でありながら意図的に起こされているかのような、そんな奇妙な違和感を覚える現象に馬場はしばらくその場に立ち尽くしていた。
どれだけ経っただろうか。その渦も次第に勢いを無くし、羽がはらはらと地面に溜まり始めた頃、ふっと我に返った馬場は腕時計に目をやった。
針は13:10を差している。
まだ少し渦巻いている羽に目をやりながら、馬場は元来た道を戻り始めた。
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