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Photo by
narukuni
特別な匂いのする線香を買った私は少し恥ずかしい気持ちになった。
小さい頃はお花になるのが夢だった。
だけど今は出来ればお金がたくさんもらえる仕事の方がいいな、と思っている。
小さい頃は周りのことなどまったくではないが今よりは気にせず生きれていた。
ピンク色が好きとは言えなかったけど、水色が好きなんて合わせることはなかった。
黒のスカートが好きとは言えなかったけど、毎朝スカートを手に握りしめて母さんの前に立っていた。
大事に取っておくだけの折り紙の金色も、今ではただの折り紙だ。
蝶々を追いかけていたあの公園では、もう逆上がりすらも出来ない。
お花だよってはしゃいで通ったあの帰り道は、お花なんて見つける余裕もないくらいの流れる速さで通るようになってしまった。
わたしのなのって取り合ったくまさんはどこに行ったかわからないし、
このどんぐり可愛いでしょって言ってたのなんて今じゃ全部同じに見える。
特別な香りのする線香なんて買っちゃったりして楽しんでる気になってる今の私は少し恥ずかしい。
線香なんて買わなくたって雨が降る前の匂いとか、朝起きた時の窓を開けた時の匂いとか、自分の部屋を開けた時の朝食の匂いとか、誰もいない放課後の古い廊下の匂いとか、家に帰って単身赴任の父さんが帰ってきてる時の家族の優しい匂いとか。
そんな匂いと呼べるものかすらもわからないものでさえも大事で、大切で、離してはならないものだと感じた。
特別なものを買わなくたって、特別なことをしなくたって、小さい頃から日常の中に特別はあったはずだ。
それを特別だと思えなくなった私は大人になってきているのだろうか。
それが大人になるということなのであれば、私は大人になりたくない。
いつまでもこのどんぐり可愛いよって言える人でいたい。
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