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②様々な科学領域を結び付けるモデル図

はじめに

 33年前の5月初旬、確か古本屋だったはずだが、西ドイツの「dtv-Atlas zur Biologie」を翻訳した「カラー生物百科」(平凡社)という本に出会った。

 開くと、動物や植物の絵だけでなく、見慣れない回路図のようなものが幾つかあり、なぜか心を惹かれた。サイバネティクスのモデルという。

 ウィキペディア他、現代のネットサイトや書籍でもサイバネティクスについては文章のみによる解説が多く、時おり画像検索するが本書のような回路図で説明したものを見たことがない。

 しかし、その図を改良すれば諸方面で行き詰まる現代社会への有効な突破口になるのではとの思いが増してきたため、過去に手放した(誰かに貸したままになってしまった)この本をネット検索し、近いところで奈良県桜井市の本屋で見つけ、ゆうパックで2日半かかって再び手元に呼び戻した。

 まるで遠く旅に出た昔の有能な相棒が30年ぶりに帰ってきたような感じである。

 届いてすぐ図のページをきれいにスキャンするためバラバラに解体されてしまったが…。

 その要点を本記事にて紹介したい。

1.ウィーナーについて

 まず、考案者のノーバート・ウィーナー(1894-1964)について触れておく。アメリカ・ミズーリ州の生まれで、11歳でタフツ大学数学科に入学した天才。14歳でハーバード大学大学院(動物学)、他ケンブリッジ大学(哲学者ラッセルに師事)などを経て24歳でマサチューセッツ工科大学(MIT)に教職を得た。そして、第二次大戦中の射撃制御装置の研究の中でサイバネティクスを提唱することになる。後の“サイボーグ”や“サイバー空間”の語源ともなり、コンピューターの創始者とも呼ばれる。

2.サイバネティクスのモデル

 カラー生物百科7頁では、「サイバネティクスは、実にさまざまな科学領域をむすびつけている」とある。

 赤ラインを引いた箇所の通り、今回は工学や生物学、社会科学などの諸領域を共通のモデルで表すところに特化して、話を進めていきたい。

3.操縦の原理

 まずは3つの要素からなる、操縦の原理から始めたい。

 今回、改めてよく見ると一番上の青い部分が「プログラム」とあったが、私は長い間ここを「主体」と思っていた。その勘違いが次の展開を導くのだが、下の解説を読んでもやっぱり主体でもいいと思う。

 青いラインを引いた箇所の通り、生物学や行動学、経済学など確かに様々な領域を結び付けている。その行動主体や経済主体が図の青い部分であり、しかも単純な系なのでプログラムと名乗るよりは主体でも良いと思ったわけである。

 ところで、科学者が観察する様子もこの3要素からなるモデルで(要素名は異なるが)表される。

4.制御回路

 次はいかにもサイバネティクスらしい制御回路のモデルである。一番上にプログラム、次に制御装置制御対象、一番下に環境の4つの要素からなるモデルで、中央にフィードバックがある。

  ウィーナーの本では弓で矢を的に射る様子を使って例示していたが、矢が中央に当たらないと、その結果をフィードバックしてズレを修正しながら二の矢、三の矢を射る。一方、カラー生物百科の解説は以下の通り。

 なお、各要素間の量や数値については、目標値や実現値、外乱値、基準量などの名称がある。

 部屋の温度を一定に保つサーモスタットの図

 体温を一定に保つ場合

5.学習回路

 本書にはあと2つモデル図があり、その1つが学習回路である。なぜ私が心惹かれたのか?うっすら分かってくるはずである。

 観察は3要素からなるモデルだったが、学習回路は4要素からなる上図のような系。そこに前回記事(3大心理学が16大哲学に関わる)で触れた“客体像を構成する過程”の前半部分が相当しないだろうか?

6.思考回路

 そして、この思考回路が後半部分に当たる。

 つまり、観察や単純動作などの操縦の原理からはじまって、学習回路を経て思考回路に続く、プロセスがそこに認められるのである。

あとがき

 その話を進めていくためには、サイバネティクスのモデルを改めてイチから見直し、要素は何があるのか、要素の名前はこれで良いのか、適切なものに変え、系がプロセスによって変わっていく、いわば“可変式サイバネティクス”を組み立てていかなければならない。

 その話は次回以降に掘り下げていき、今回はカラー生物百科に掲載されたモデル図のみで記事を構成した。

 読者の中で触発された方がもしおられれば、自分なりに培った経験や知識で研究を進めていただくこともまた望ましい。そもそも総合的なモデルなので、本書に挙げた領域以外にももっと様々な分野に広げることが可能だろう。

 そして、共同研究や事業展開等に発展することができたら…、それは次回以降の展開次第である。

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