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働き方と親子の関係を進化させる「親子ワーケーション」(後編)

今村茜さん(毎日みらい創造ラボ)インタビュー

■親子ワーケーションは子どもの成長を直接見ることができる貴重な機会

――親子ワーケーションについて、参加するメリットなどをおうかがいできますか。

今村さん:似たような仕組みで、子どもだけをお預かりするキッズキャンプが昔からありました。でも親子ワーケーションは、それとは違います。
違いは、親は子どもの成長が間近で見られること、子どもは親がいるので安心することです。私がよく推奨しているのはイベント型の親子ワーケーションで、例えば3、4組の家族が一緒に過ごします。そうすると自然と上の子が下の子の面倒を見たりという異年齢保育の良さや、私が参加した場合は、例えば私に仕事の電話が来たという時に、他のお母さんがうちの子を見ていてくれるというような「拡張家族」の効果が生まれやすくなります。都市で子育てをしていると孤独なんです。特に旦那さんが忙しくてワンオペだったりすると、余計に孤独を感じて煮詰まったりすることも多いんです。

でもワーケーション先で他の家族と一緒に滞在をすると、その地域のおじいちゃんおばあちゃんがうちの子を見てくれているとか、地域の小学校に友達がいるという状況が作れる。それは都市から地方に拡張している家族ができるということだと思うんです。
そういった体験をすることで子育てに対する不安が解消されたり、自分が全て責任を持ってやらなくてはいけないと思っていたのが、他の人も助けてくれるんだ、と実感が得られたりして、子育てに余裕が生まれることがあります。
それから、普段、親が小学校や保育園での子ども同士の関わりを見る機会が少ないんです。でもワーケーションだと、仕事をしている横で子どもがいろんなアクティビティに参加したりすることもあるので子どもの様子が直接見られます。「はじめまして」のお子さんと仲良くなっていくというコミュニケーション力が育っていく様子も間近で見られます。
ワーケーションは子どもの成長を親が間近に見られる貴重な機会だと思います。

――今村さんのお話をうかがっていると、親子ワーケーションは、良いことばかりのようですが、課題もあると思います。例えば、ワーケーションに参加している間、子どもが学校を欠席になってしまうとか・・・

今村さん:子どもが、学校が欠席になるか、出席になるかというのは送り出し側の学校の判断なんです。そのため、いくら地域の受け入れ側が「体験入学として受け入れます、体験入学の証明を出します」と言っても、送り出し側の学校が「それは認めません」となったら欠席になります。事実、同じ兄弟、同じご家庭でも上のお子さんと下のお子さんの学校が違う場合、上の子はOKだったけれども、下の子はダメだったというケースもあります。
そのような状況なので欠席になるかどうかは結構難しいところなんです。ただ、受け入れ側の自治体さんは確実に増えているかなと思います。
徳島県は「デュアルスクール」という、2週間以上であれば転居届を出すことなく徳島の学校に通えるという県独自の制度を作っています。

徳島県の「デュアルスクール」

――都市と地方で勉強の進み具合が違うと思うのですが、そのあたりは調整したりするのでしょうか。

今村さん:数日程度であれば、通常行っている学校の勉強をどうカバーするかというよりも、通常行っている学校で得られない経験、異文化体験をいかにさせてあげられるかの方を重視した方が良いと思います。
地方の学校、例えば、全校生徒10人とか20人とか、そういった学校に入ることで子どもにとってのカルチャーショックになるわけですよね。「こういった世界があるんだ」と子どもの視野を広げることができる。
その地方で受け入れる子どもにとっても、東京からお子さんが来る。子どもが純粋に一人増えるというのは子どもの活性化、地域の活性化にも繋がるんです。

通常行っている学校の勉強を遅れさせないようにするためにタブレット学習、IT学習を充実させればいいのでは、という議論はあります。例えば徳島に行っていて、通常の学校の内容をパソコンで受けるとか。そうした取り組みを始める事業者も増えつつあります。
教育のポータブル化は親子ワーケーションに必須の課題なのですが、コロナで都市部の学校は大体タブレットが一人一台になりましたから、そう遠くない未来に実現はできると思います。

鳥取県大山町船上で漁師さんと 2021年11月

■鳥取県がワーケーションや副業人材の獲得など、他県に先がけて動ける理由

――今村さんは鳥取県のワーケーションのアドバイザーにもなられていますが、鳥取県はワーケーションだけでなく、都心で働く副業人材を受け入れるなど、新しい働き方に積極的です。鳥取県がそのように新しい働き方に積極的な理由について、今村さんが感じられていることはありますか?

今村さん:鳥取県は日本で一番人口が少ない県なので、それだけ危機感が強いのだと思います。
鳥取県がやっている関係人口創出、ワーケーション、ファミリーワーケーションは将来の移住定住層の獲得ですよね。副業の方は働き手の獲得。それも鳥取に移住することなく、週一副社長やオンラインでリモートで副業ができるというところをうたっているのは、移住してくる人を探すのは難しい側面があるからです。
移住してくる人を探すのではなく、一人の人をシェアするという考えですね。シェアする人が増えれば増えるほど、住んでいる人は増えなくても街が活性化しますよね。

鳥取に限らず、日本全国多くの県が移住を獲得したいと思っています。でも日本全体の人口が減っているから移住を獲得するのは相当難しいんです。
でも、移住しなくても週一回関わってくれるとか、年に3回関わってくれる人を増やせば、町に関わっている人口は増えていく。しかもそれは割と無理なく、しかもSNSなどを使えば割と拡大的にどんどん増えていきます。
鳥取県はどちらかと言うとそういった関係人口を増やすことで、人口が一番少ない県だけれども活性化しようという取り組みを進めています。

■パパワーケーションもオススメ

――今村さんは新聞社の記者でもありますが、記者という仕事は、テレワークやワーケーションはやりやすい仕事なのでしょうか?

今村さん:私がワーケーションを自分でやって、レポート記事も書きましたが、そういった働き方ができるのは記者職だったからというのが大きいです。例えば外回りの営業みたいなものなのです。出社するというよりは毎日取材先に行って、取材をして記事を納品するという風な働き方なんです。ただし思いっきり成果主義だし、毎日行く場所が違うので、私はコロナになる前から経済部の記者だった時は常に小さいスーツケースで動いていたんです。毎日行く場所が違って取材先で記事を書くので、パソコンや資料を常に持ち歩いていました。スーツケースをガラガラ引いて仕事をしていましたが、当時は「何それ、何か変なバッグだね」と言われました。

そんな感じでどこでも仕事をするというのが当たり前でした。なので、どこでも仕事ができるんだったら旅先でしてもいいじゃないかということでワーケーションにチャレンジした経緯はあります。もっと言えば自分一人だったらやらなかったと思うんです。自分一人がワーケーションするんだったらそんなにインセンティブはありません。

私の場合は、2018年の夏に和歌山県白浜で初めててワーケーションにチャレンジした時は娘二人を育てていました。上の子が小学校に入った年で、うちは共働きなので初めて夏休みが来たのです。保育園の時は、みんな働いているから子どもの夏休みはないんです。
でも小学校になると急に一か月半の夏休みが来ます。共働きの場合、子どもはその間ずっと学童に通うんです。でも専業主婦のお子さんが学童には行かずに里帰りや旅行をしている様子などを見て、私もせっかくの子どもの夏休みだから色んな経験をさせてあげたいと思ったのです。
でもうちは共働きだから夫婦二人休みが取れるのはお盆の時期しかなく、
どこに行くにも料金が高いし混んでいます。そうではない時期は休みが取れませんから、子どもの一生に一回の小1の夏休みにどこにも行けないことになります。それにすごい罪悪感がありました。

自分は仕事が休めないけれど、普段私は取材先で仕事をしているのだから、だったら旅先で仕事をしてみようと思い親子ワーケーションにチャレンジしたのです。たまたまその時に和歌山県が親子ワーケーションをやってくれて、子どもを見てくれる先があったのでチャレンジできました。

子どもに色んな経験をさせたいけれど、共働きで自分は仕事が休めない、だから子どもを見てくれる先があったら親子ワーケーションをしたいという思いは特に働く女性、ママさんの間で強いです。最近はパパさんでもやる方が増えています。特に普段お子さんと一対一で接する時間があまりないパパさんは、パパワーケーションをやることによって子どもとの距離がぐっと縮まります。

今年の夏にJALさんの社員を対象に親子ワーケーションの企画をしたんです。そこにパパと娘で参加した親子がいました。そのお父さんもお仕事が忙しい方なのですが「普段子どもと触れ合うことはないし、子どもと2人で1泊なんて初めてです。妻にはすごく心配されました。娘にもすごく心配されました。でも3泊4日じっくり子どもと向き合いました。こんな時間は初めてでした。今までにない絆が生まれたと思います」とおっしゃっていました。親子ワーケーションは特にお父さんにお勧めです。

長崎県佐世保市 2022年5月

■ワーケーションは社会課題解決のきっかけになるか

――日本は、人口減少、出生率低下、平均賃金も低下、新しい産業が育たない、など課題をあげたらきりがありません。
しかし、ワーケーションは、課題のいくつかを解決するきっかけになるのではないかと思っています。今村さんはどう思われますか?

今村さん:地域活性化で言うと、ワーケーションが、地域課題を都市の力を借りて解決するという仕組みになると思います。課題がある所にしかイノベーションは生まれないと私は思っています。課題を見つけに海外、発展途上国に行かれる方もいたりしますし、働き手も企業もそうですよね。
例えば日本は高齢化が進んでいるけれども、それだけ先進的な課題があるんだと見なして高齢化に対処している企業が成長していたりもします。
地方に行って地域課題を解決するのも同じです。例えば人口減少によるMaaS(マース:Mobility as a Service)の発展や、オンデマンドバスやタクシーの発展などもそうです。

働き手、副業やリモートワーク、パラレルワーカーなど、そういった人材の活躍の場を創出するのも鳥取県だったり長野県だったり地方だったりするわけですよね。なので、課題を抱えているところでビジネスをするからこそイノベーションは生まれやすいです。
日本企業は東京という世界的にも特殊な市場、あれだけ人口が集まっているところにのうのうとあぐらをかいてきたから競争力が落ちているんだと思うんです。だからあえて地方に行って地域課題を解決することでサービスを生み出すようなことを心がければ、イノベーションは生まれやすくなるんじゃないかなと思います。

――東京でビジネスをしている限りは成長できないということでしょうか?

今村さん:そんなことを言うと怒られそうですけれども・・・実際にやはり地方移転をする、本社移転をする企業も増えていますし。東京は、例えば言語が日本語しかない。ある程度の市場がありニーズがあるということで世界でもすごい楽な市場なんです。
今コロナで海外進出が難しいのであれば、あえて地域に目を向けて、そこの課題を解決することで企業の体力も育っていくと思います。

――親子ワーケーションのことから、先進的なイノベーションを続けている自治体のこと、今後企業が成長するためのヒントまで、いろいろ参考になるお話をありがとうございました。

今村さんのインタビュー「前編」はこちらです。

今村茜さん プロフィール
毎日みらい創造ラボ/毎日新聞記者。子連れワーケーション推進中。ライフステージにあわせて誰でもどこでも自由に働ける道を探るNextStyleLab主宰。ワーケーション/リモートワーク、複業/起業、地方移住/2拠点居住などをテーマに「#働くを考える」イベントを毎月開催しています。2017年からワーケーションを取材&子連れで実践。親も子も成長する親子ワーケーションの受け皿を全国各地につくるべく、情報交換公開グループ「親子ワーケーション部」を運営しています。3児の母。親子ワーケーション部代表、鳥取県ファミリーワーケーションプログラム造成支援アドバイザー、観光庁ワーケーション推進事業コーディネーター、日本ワーケーション協会公認ワーケーションコンシェルジュ。
・Twitter :https://twitter.com/imamura_akane
・Instagram:https://www.instagram.com/akane_imamura
・Note :https://note.com/nextstylelab
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