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アロマセラピー/アロマヒーリングの疲労回復・リラックス・抗ストレス効果に対するエビデンス

前回はアロマセラピーについてその科学的・医学的根拠があるかどうかについて研究論文を紹介しました(*1)。その結果は「かなりエビデンスレベルの高い研究で抗不安効果や抗抑うつ効果が得られた」ということが示されていました(*2)。

アロマオイルは現在日本では医薬品としては扱われていませんが、医学的に精神症状に何らかの効果があることは事実のようです。アロマオイルやエッセンシャルオイルの説明に「○○に効果がある」というような昔から伝わる効果効能をよく見かけますが、これらは“まじない”や“気休め”というわけではなく実際に効果があることが21世紀になってようやく証明され始めたことになります。

今回もアロマセラピーに関する医学的・科学的な目線で行われた精度の高い研究を紹介していきます。

一つ目は「The Effect of Aromatherapy Inhalation on Fatigue Level in Individuals Undergoing Hemodialysis Therapy(血液透析患者の疲労感に対するアロマ吸入の効果、*3)」という研究です。これは2017年に公開されたトルコからの研究論文です。

目的はタイトル通り、疲労感や倦怠感の症状がある患者さんに対してアロマ(エッセンシャル)オイルの吸入がどのような効果をもたらすか?という内容です。対象者としてはある血液透析センターで透析治療中の105人の協力を得て行われましたが、最終的に条件(18歳以上、疲労症状あり、アロマに対するアレルギーなし、等)を満たす50人に絞られました。

この50人はランダムにアロマセラピー群と対照群に25人ずつ振り分けられた、いわゆる「ランダム化比較対照研究」というエビデンスレベルの高い研究デザインになっています。

疲労感/倦怠感の評価としては「Brief Fatigue Inventory(簡易倦怠感尺度, *4)」という10項目アンケートがあり、これによって疲労感がスコア化されました(例:「対人関係に支障がありますか?0(全く支障なし)〜10(完全に支障があった)」)。

もう一つの方法はVAS (visual analogue scale)というものです。これは下図のように0〜10までの範囲を表す一本の直線があり、そこに自分が感じる倦怠感を任意の場所に記入するものです。例えば、0(全く感じない)〜10(最大の疲労感)の間で自分が感じる疲労感を自由に表すことができます。数字でなくアナログで無段階に表現できることがこのVASスケールの長所です。また、「疲労・倦怠感」以外にも「痛み」「不安」といった「測定が困難なもの」の評価にも使用できるメリットがあります。

アロマセラピーの方法は、ボウルにお湯200ccを入れてそこに調合されたアロマオイルを3滴たらし、30cmの距離で5分間吸入が行われました。アロマオイルの内容はラベンダーとローズマリーのエッセンシャルオイルを同じ比率で配合したものを用い、治療中は周囲を布で覆ってアロマの効果を最大限に得られるように工夫されました。

対する比較対照群ではアロマオイルの代わりにほぼ無味無臭のヒマワリ油が用いられました(ヒマワリ油は香りがほとんど無いためエッセンシャルオイルを希釈するキャリアオイルとしても使われます)。いずれのグループも週3回の透析時に各5分のセッションが行われ、その前後で疲労感/倦怠感の評価が行われました。

結果はFigure 3に示した通りになりました。Fatigue Inventoryのスコアを見るとアロマ群(Intervention group)では42点から19点へとスコアの減少(倦怠感の改善)が見られました。また、VAS Fatigue (倦怠感のVASスケール評価)でも約7点から約3点へと改善しています。

分かりやすくグラフ化するとFigure 4のようになります。それぞれのグラフの左側がアロマ群、右側が対照群となりますが、アロマ群の方が倦怠感スコアが大きく減少していることが分かります。p=0.001, 0.002というのは「偶然でこのような差が出る確率」を示しており、「偶然でこのような差が出る確率は0.1%」つまり「統計学的に明らかな改善」と言えます。

対して対照群の方は減少していても差が僅かでありp=0.71, 0.55という結果が出ていてこれは「偶然で差があるように見える確率が55%〜71%」という意味であり、「統計学的に有意な差は無し」ということを表しています。

この研究結果からは、「吸入によるアロマセラピー/アロマヒーリングでも明らかな疲労・倦怠感の改善効果が得られた」というエビデンスが示されました。大量に体に塗らなくても、数滴のエッセンシャルオイルでも効果が得られるというのはとても有益な情報ですね。


続いてもう一編の研究を紹介します。次は「Effects of aromatherapy essential oil inhalation on the stress response after exposure to noise and arithmetic subtraction stressor: randomized controlled trial.(騒音/計算ストレス刺激後のストレス反応に対する吸入アロマセラピーの影響: ランダム化比較試験, *5)」という研究でこちらは2018年に韓国から公表された研究論文になります。

この研究の概要は、健康な被験者に能動的にストレスを与え、そのストレス反応に対して吸入アロマセラピーがどのような効果をもたらすかを調べるというものです。

対象者は20〜35歳の成人男女で、嗅覚に異常がないことが参加条件とされました。

実験参加者に与えられるストレスは、最初にヘッドホンを装着しホワイトノイズ(*6)を3分間聞かされます。ホワイトノイズとは「サー、、、、、」という一定の雑音のことで、一般的には不快な雑音の一つです。そして、その後「6135から17ずつ引き算を繰り返す」という計算を2分間繰り返すよう指示されます。

ストレスの指標は5項目測定されました。

1)ストレス指数(Stress Index)
これは自律神経反応(balance of ANS:autonomic nervous system) による5分間の心拍数の変動(Heart Rate Variability, Figure 6 left, *7)がストレスの指標となることも知られており、これをFigure 6 rightのような機器を用いて解析し、ストレス指数を算出します。1〜10の数値で表され、高いほどストレスが大きいことを意味します。

2)低周波活動(Low Frequency Activity)
これは交感神経の指標として上記と同様に5分間心拍数の変動(HRV)から算出され、数値が高いほどストレスが大きいことを示します。

3)血清コルチゾール濃度
コルチゾールはストレスで誘発されるストレスホルモンの一つですが、日内変動(時間帯によってもホルモン分泌量が変化する)があるため、変動の少ない午後4時〜午後7時の間に実験・血液採取が行われました。

4&5)血圧(収縮期血圧:SBP、拡張期血圧:DBP)
「ストレスがあると血圧が上がる」と一般に言われますが、この項目もストレスが加わると上昇します。この値も解析に含まれました。

グループ分けと処置の内容

i)アロマグループ
ストレス負荷後にこのグループの被験者らはエッセンシャルオイル(ラベンダーオフィシナリスLavandular officinalisとカナンガオドラタCananga odorata)をアロマストーンの上に2滴たらし、鼻から10cmの距離に置いて10分間吸入を行いました。

ii)プラセボグループ
このグループはストレス負荷後にアロマグループと同様に吸入を行いましたが、エッセンシャルオイルの代わりに生理食塩水(無香無臭)が用いられました。

iii)コントロールグループ
このグループはストレス負荷後に吸入は行わず、ただ10分間安静にしていました。

参加者はこれら3つのグループに完全にランダムに振り分けられ、最終的にアロマグループ33人、プラセボグループ31人、コントロールグループ31人がデータ解析まで行われました。この研究も「ランダム化比較対照実験」というエビデンスレベルの高いデザインで行われました。


結果をFigure 7に示しますが、このままでは難しいので順に説明していきます。

左側にStress Index, LF activity (低周波活動)など5項目あり、その隣にT0, Ts, T10等記載されていますが、これらは時間を表します。
T0: 実験前、Ts:ストレス負荷時、T10:実験(処置開始)から10分後、T30: 実験(処置開始)から30分後、Difference T10-Ts: T10からTsのデータを引いた値、Difference T30-Ts: T30からTsのデータを引いた値、を表しています。

右側に統計学的な値が示されていますが、このPの値が小さいほど(一般的にP<0.05)“統計学的に明らかに差がある”ことを示しています。そして分かりやすいように0.05以下の数値に赤い下線をつけていますので、「赤い下線がある項目は全て有意差がある」と考えてください。

上部のストレス指数(Stress Index)を例として見てみると、被験者がストレスを受けた後に処置(アロマ等)開始10分後の値(T10)と30分後の値(T30)でストレス指数に有意差(p<0.001)が出ているのが分かります。

そして、どの程度ストレス指数が減少したかの指標であるDifference T10-Ts, Difference T30-Tsの値もアロマグループがプラセボ(生理食塩水吸入)グループやコントロール(吸入無し)グループよりも大きく減少していることが示されています(p=0.013, p=0.013)。

数字だけでは分かりにくいという人のためにFigure 7のストレス指数の部分をグラフにして可視化してみました(Figure 8)。このグラフでは緑がアロマグループ、青/紺色がプラセボとコントロール(対照)グループを表しています。このグラフでは特に差分(T10-Ts, T30-Ts)グラフを見るとアロマグループのストレス減少作用が大きいことがよく分かります。


同じようにFigure 7の表において、ストレスの交感神経活動の指標となるLF activity、ストレスホルモンのコルチゾール濃度、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)をそれぞれ見てもらうと赤い下線のある項目はそれぞれグループごとに有意差があることが分かります。自律神経制御作用、リラックス効果、血圧低下作用などストレスに関係する多くの項目においてアロマ(エッセンシャル)オイルの吸入が有意に数値を改善したことが科学的に実証されました

面白いのは、ストレスホルモンのコルチゾールの濃度ですが、アロマグループとプラセボ(生理食塩水)グループで同じくらい改善しています(アロマ:-1.93、プラセボ:-2.01、コントロール(無処置):-0.62)。他にもよく見るとアロマ群ほどではないですがプラセボ群もコントロール群よりストレス改善傾向が見られます。これは“ゆっくりと大きく深呼吸する”だけでもストレス改善効果が得られているのかもしれません。

アロマオイルを大きくゆっくりと吸い込むことは、エッセンシャルオイルの香りと成分を吸い込むと同時に“深呼吸によるリラックス効果”で一石二鳥のヒーリング効果を得ていると考えられます。

結論としてこの研究では「若い健常な成人男女をストレス環境に置き、アロマ群とプラセボ(生理食塩水)群とコントロール(無処置)群に無作為に振り分けてストレス反応を観察したところ、アロマ群において他の群よりも有意なストレス指標の改善効果が観察された」とまとめることができそうです。

それでは小難しい話はここまでにして、実際に知って得するエッセンシャルオイルの話をしていきます。

・ローズマリー Rosemary
最初の疲労回復の研究で用いられたエッセンシャルオイルで、ローズマリーは地中海沿岸が原産のようです(*9)。私も知らなかったですが、バラ(Rose)とは関係なくシソ科の植物のようです。甘みのある爽やかな香りを持つため、肉料理の匂い消しの香草/ハーブとしてよく知られています。

ポリフェノールを含むことから、抗酸化作用や美肌効果などが期待されると言われています。薬効としては抗菌効果や感染予防効果もあるとされ、これらのハーブを酢にして体に塗り感染予防したという記載もありますがエビデンスあるかどうかは分かりません。古くは魔除けや浄化の効果の言い伝えもあるようです。

・ラベンダー Lavandular officinalis
今回の記事では最初の倦怠感改善の研究、2つ目のストレス低減/リラクゼーションの研究、どちらでも使用されたエッセンシャルオイルです。Lavendular officinalis とありますが、Lavendula angustifoliaと同義でさまざまな亜種がある中の“真正ラベンダー”という位置付けのようです。花は皆さんもよくご存知と思いますが、“ラベンダー色”というのが一般名詞になるくらい有名な独特の紫色の花を咲かせます。

ラベンダーの語源では疲れや関節をほぐすために入浴時に使われたラテン語の「洗う:lavo, lavare」に由来するという説や中世ラテン語の「青みがかった:lavindula」に由来するという説などあるようですが、ラベンダーの疲労回復効果やリラックス効果が中世から知られていたとしたら凄いことですね(*10)。

他にも効果効能としては、不安・不眠・うつ症状の改善、鎮痛作用、健胃作用、防虫殺菌効果などさまざまな効果が言い伝えられています。ハーブ/薬草としては万能薬としての位置付けでもあるようです(*11)。今までは「古くからの言い伝え/おまじない」程度にしか認識されていなかったかもしれませんが、今回の研究のように科学的なエビデンスによって効能が実証されつつあります。

・Cananga odorata (イランイラン:Ylang-ylang)
カナンガ・オドラタと言われても聞いたことがない人も多いかもしれませんが、イランイランと聞くと多くの人が知っていると思います。熱帯地方に生息する樹木でFigure 11にあるような黄色い大きな花を咲かせます(*12)。

この花から採れた精油はイランイラン油と呼ばれ、ストレスを軽減させたりイライラした感情を沈める作用があることからアロマオイルでもよく用いられます(*13)。今回の研究では2つ目のストレス軽減実験で使用されたエッセンシャルオイルですが、この研究にふさわしいオイルだったと言えます。

お風呂上がりや寝る前にリラクゼーションを得るためにも良いですし、集中して読書したり、ストレスでイライラした気持ちを落ち着かせたいときにちょうど良いアロマオイルと言われています。

今回は前回に引き続きアロマセラピーの最近のエビデンスを掘り下げてみました。ランダム化比較試験という信頼性の高い手法で出されたエビデンスで裏付けられたデータがあるので、アロマセラピーやヒーリングに疑問を抱いていた人達はこれらの科学的効果を信じて安心して受けて良いと思います。

今回紹介したラベンダーやローズマリーを使ったアロマセラピー/ヒーリングなど、科学的な根拠に基づいて知り合いに勧めることもできるでしょうし、まだ受けたことのない人は自身でその効果を体感してみると良いと思います。また、イランイランやローズマリーを使用したアロマキャンドルなども自宅で気軽にリラクゼーションや抗ストレス効果を得るのに良いと思われます。もちろん、瞑想をやる時も気持ちを落ち着かせ心身ともにリラックスさせてくれるアロマは効果的なのでぜひ様々なエッセンシャルオイルを試してみてください。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 医学博士, 瞑想・形而上学ガイド
Takuma Nomiya, MD, PhD, Meditation/Metaphysics Guide
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用/参考文献:

*1. アロマセラピー/アロマヒーリングって科学的根拠あるの? https://note.com/newlifemagazine/n/na9b1dcba056e 
*2. Wilkinson MS, et al. Effectiveness of Aromatherapy Massage in the Management of Anxiety and Depression in Patients With Cancer: A Multicenter Randomized Controlled Trial. J Clin Oncol 25:532-539. 2007
*3. Bicer S and Demir G. The Effect of Aromatherapy Inhalation on Fatigue Level in Individuals Undergoing Hemodialysis Therapy. International Journal of Caring Sciences 2017, 10 (1) 161-168.
*4. Mendoza, TR, et al. The rapid assessment of fatigue severity in cancer patients, use of brief fatigue inventory. Cancer 1999; 85: 1186-1196.
*5. Bae I, et al. Effects of aromatherapy essential oil inhalation on the stress response after exposure to noise and arithmetic subtraction stressor: randomized controlled trial. Int J Clin Exp Med 2018;11(1):275-284
*6. white noise- wikitionary. https://en.wiktionary.org/wiki/white_noise 
*7. Heart Rate Variability-Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Heart_rate_variability 
*8. Canopy9 series-IEMBIO. http://iembio.com/ 
*9. ローズマリー−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ローズマリー 
*10. ラベンダー−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ラベンダー 
*11. 真正ラベンダー−aromanet-jp.com, https://www.aromanet-jp.com/セルフケア/lavandula-angustifolia/ 
*12. Cananga odorata- Wikipedia.  https://en.wikipedia.org/wiki/Cananga_odorata 
*13. イランイランノキ−武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園
https://www.takeda.co.jp/kyoto/area/plantno170.html 

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