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不安や心配に対する瞑想の効果

今回は、どの人でも必ず経験する「不安」についての研究を取り上げてみます。「不安」とは多かれ少なかれ誰でも持っている心理状態で、仕事の締め切りに対する不安であったり、人間関係、経済的状況、病気、家族の健康、将来に対する漠然とした不安、こういったものはよく聞きます。他にも、人前で話すことが不安、初対面の人に会うのが不安、周りに大勢の人がいるだけで不安、逆に不安で一人でいられない、このような状態も存在し、ある限度を超えると不安障害・パニック障害といった病的な状態になります。

 今回紹介する研究は“Randomized clinical trial of adapted mindfulness-based stress reduction versus group cognitive behavioral therapy for heterogeneous anxiety disorders.(不安障害に対する認知行動療法とマインドフルネスストレス低減法のランダム化比較試験)*1”というタイトルで2013年にコロラド大学の研究者から報告されたものです。既にご存知の方も多いかもしれませんが、“ランダム化比較試験”とは被験者をランダムに振り分けて比較する手法で非常に客観性の高い研究です。概要は、不安障害と診断された人々を従来の心理療法と瞑想グループにランダムに振り分け、その効果に違いがあるかという点を検証した研究です。
 
 対象は医学的に不安障害(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-IV: DSM-IV)を持つと診断された米国の退役軍人(計105名、男性83%、女性17%、平均年齢46歳)がランダムに従来の心理療法(認知行動療法, Cognitive behavioral therapy: CBT*2)と瞑想療法(マインドフルネスストレス低減法:Mindfulness-based stress reduction: MBSR*3)に振り分けられました
 初期診断はM.I.N.I.(*4)という質問票形式のスコアリングシステムで、これによってパニック障害/恐怖症(PD / A)、全般性不安障害(GAD)、社交不安障害(SAD)、特定の恐怖症(SP)、強迫性障害(OCD)、または民間の心的外傷後ストレス障害(PTSD)が一定の診断基準に達した人が研究に登録されました。このM.I.N.I.という評価方法でCSR(Clinical Severity Rating:臨床的重症度)スコアも評価されました。これらの精神障害の主要なものを評価し、それ以外にも一定の基準を超える障害は同時発生障害(co-occurring disorders)として評価されました。同様に不安や心配を評価する指標としてM.I.N.I.以外にもPSWQ(*5)やMASQ-AA(*6)という国際的な指標が用いられました(図1に一部日本語訳を示す)。

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 研究期間中45人がMBSR(瞑想)群、60人がCBT(従来の心理療法)群に振り分けられました(数に差があるのは多施設で行う際の施設承認の時期にずれがあったためとのことです)。また、MBSR群の方が合併する障害(co-occurring disorders)を有する率が有意に高かった(68% vs. 43%, p=0.01)とのことですが、それ以外に薬物使用率や社会的背景などに群間差はみられませんでした。

 CBT(認知行動療法)とはどのように進めていくか一例を図2に示します。これは厚労省により提示されている一般的なCBTの非常に大まかなやり方(*7)ですが、このように自分の行動を見つめ直し、それを認知し、分析しながら改善する行動へと移していくもの、と考えてもらうと良いと思います。この研究ではCBTを心理教育/呼吸訓練/自己監視/認知再構築/受容/行動実験、等々といったように1〜10のセッションに分け、実践していくことが進められました。図2のようにCBTには瞑想的な要素は含まれていません。

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これに対してMBSR(瞑想)群もCBT群に合わせるために1〜10のセッションに分けて実践が進められました。心理教育に始まり、身体を意識する瞑想(マインドフルネスによるボディスキャン)、呼吸訓練と精神的瞑想、マインドフルヨーガ瞑想、座位による深い瞑想、優しさと愛情の瞑想、価値観の見直し、等々といったことを10のセッションで行われました。CBT群もMBSR群も1週間で約90分かけて10のセッションをこなしていき、これを両群とも10週間継続しました。そして両群のCSR(臨床的重症度)スコアを治療前−治療後−治療後3ヶ月の時点で評価し、解析が行われました。

 結果ですが、CSRスコアはCBT群もMBSR群もいずれも治療前−治療後−3ヶ月後と有意に低下しました(p≤0.001)。どちらも一定の有効性を示し両群の有意差は無かったようです。シンプルに主要な不安障害等に関しては従来の認知行動療法も、瞑想によるストレス低減法もいずれも有効であるとの結果でした。

 続いて“同時に存在する気分/不安障害(co-occurring mood/anxiety disorders)”について二次解析が行われました(図3)。図3左のグラフを見るとCBT群では統計学的に有意ではありませんが治療前よりも併発する気分/不安障害が微増しているようでした。これに対しMBSR群では時間と共に減少していってます。両群間では有意差がみられ、MRSR群がCBT群より気分/不安障害が減少する傾向が有意に強いと言えそうです(p<0.05)。これをオッズ比で表したのが図3右グラフです。たまたま治療前はMBSR(瞑想)群の方が合併症状が多かったようですが、時間と共にMBSR群のオッズ比は改善し、群間解析でも有意にCBT群より良い(p≤0.001)と言える結果が出ました。

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これらの研究結果をまとめると、瞑想療法も従来の認知行動療法も不安障害等の治療に明らかに有効であることが示されました。また更なる解析において、瞑想(マインドフルネスストレス低減法)療法は従来の認知行動療法よりも随伴する症状や不安障害を改善する可能性が高いことが示されました。不安障害や随伴する心配性/強迫観念/パニック障害等への治療プログラムに瞑想を取り入れることは、従来の心理療法と同等以上の効果が期待できることが科学的検証で裏付けられました。

 最後に、この研究で用いられた瞑想法:マインドフルネスストレス低減法(Mindfulness-based Stress Reduction, *3)について簡単に補足しておきます。
 このマインドフルネスストレス低減法は以下の7つの考え方を主要な柱としています。
 1.Non-judging(判断・ジャッジをしない)
 ある時点で、あなたは「これは退屈だ」、「これは意味がない」、「これは無理だ」などと考えていることに気付くかもしれません。 これらは判断(judging)です。 それらが頭に浮かんだとき、それを判断的思考として気づくこと、そしてやめることです。あなた自身の判断的思考をやめて、出てくるものをただ見守ることが重要です 。
 2. Patience(忍耐・耐えること)
 忍耐は、心が動揺しているときに有効な方法です。それは私たちが無用な思念に心が囚われる必要がないことを私たちに思い出させます。忍耐によって、私たちは豊かさのために、不安や心配で心を埋める必要がないことを思い出します。忍耐強くなるということは、外界に囚われることがなく、あらゆる瞬間で心が完全に解放されているということです。
 3. Beginner’s Mind(初心に還る)
 今の豊かさを知るためには、「初心者の心」と呼ばれる、初めてのようにすべてを喜ぶ心を育む必要があります。例えば、あなたが親しい人に会ったとき、その人を実際のように新鮮な目で見ているのか、それともその人についての自分の思念を投影したもの見ているのかを自問してください。常にあるがままに新鮮に外界を感じているか、自分の先入観だけで外界を見ていないか、も自分の豊かさを再認識する大事な要素です。
 4. Trust(自分を信じる)
 常に自分の外を見て決断するよりも、自分の直感と自分の考えを信頼する方がはるかに優れています。何かが自分に合っていないと感じたら、自分の気持ちを尊重してみてはどうでしょうか。あなたは自分自身に責任を持ち、自分自身の存在に耳を傾け信頼することを学んでいます。自分という存在に対するこの信頼を育むほど、他の人をより信頼し、他者の本質的な良さに気づくことが容易になります。
 5. Non-striving(奮闘しない)
 普通なら何かを得ようとする場合はそのために行動します。しかし瞑想ではこの行為は障害になる可能性があります。それは瞑想が通常の人間の活動とは異なるからです。あなたがあなた自身になること以外に目標はありません。ゴールはあなたの中に既に存在しています。これは逆説的で少しクレイジーに聞こえるかもしれません。瞑想の領域では、自分の目標を達成するための最良の方法は、結果を求めて奮闘努力するのをやめることだということに気づくことが重要です。
 6. Acceptance(受け入れる)
 私たちに頭痛があったときも、病気の診断を受けた時も、誰かの死を経験した時も、私たちは物事をそのまま受け入れ、それを受け入れる必要があります。受け入れるまでに伴うあらゆる感情の変化も全て癒しのプロセスです。あなた自身が変化していくことも重要です。しかし、その前にたとえどのような状態であったとしてもあなたがあなた自身を受け入れ、愛することも重要なことです。瞑想の実践では、瞬間瞬間をとらえ、そのまま完全に自己と同一化することで、受容を育むことができます。
 7. Letting Go(手放す)
 手放すことは物事を手放す方法であり、出来事をそのまま受け入れる方法です。私たちは意図的に自分の衝動を手放すことを思い出します。私たちが何かを判断していることに気付いたとき、その考えを手放しそれ以上追求しません。そうすることでそれらを手放すことができます。同様に、過去や未来の考えが浮かんだとき、私たちはそれらを手放します。見ているだけです。
 
 以上の通りで、このような瞑想を1日45分、週6日、8週間行うプログラムがよく行われているようです。以前に紹介したヨーガ瞑想や超越瞑想とも共通点が多く見られます。まずはリラックスして自分の意識のあり方にフォーカスすること、そして「あらゆる外界での不安や心配事の解決は自己の内面に存在する」ことに気づくことが大事であると説かれています。少しでも不安や心配事がある人は瞑想の実践を試してみると良いと思います。

(著者:野宮琢磨)

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著者プロフィール

野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用/参考文献
*1 Arch JJ et al. Randomized clinical trial of adapted mindfulness-based stress reduction versus group cognitive behavioral therapy for heterogeneous anxiety disorders. Behaviour Research and Therapy 51 (2013) 185-196
*2. 認知行動療法
https://ja.wikipedia.org/wiki/認知行動療法#cite_note-15
*3. Kabat-Zinn, J. (1990). Full catastrophe living: Using the wisdom of your body and mind to face stress, pain, and illness. New York, NY: Delta.
*4. Sheehan DV, Lecrubier Y, Sheehan KH, et al. (1998). The Mini-International Neuropsychiatric Interview (M.I.N.I.): the development and validation of a structured diagnostic psychiatric interview for DSM-IV and ICD-10. Journal of Clinical Psychiatry, 59(Suppl. 20), 22-33.
*5. Meyer TJ, Miller ML, Metzger RL, et al. (1990). Development and validation of the Penn State Worry Questionnaire. Behaviour Research and Therapy, 28, 487-495.
*6. Casillas A, & Clark LA (2000, May). The Mini mood and anxiety symptom questionnaire (Mini-MASQ). Paper presented at the 72nd annual Meeting of the Midwestern Psychological Association, Chicago, IL.
*7. 厚生労働省:心の健康:認知行動療法
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/index.html

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