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脳内物質ドーパミンの「やる気と食欲」への影響

前回、前々回の記事で「ドーパミンと恋愛脳(*1)」「ドーパミンとリラックス瞑想(*2)」と、ドーパミンについて近代的な研究文献を紹介してきました。今回はより基本的な観点に基づき“より原始的な動物においてドーパミンはどのような行動に影響をもたらすのか”ということを探っていきたいと思います。

今回紹介する研究は「行動と動機付けにおけるドーパミンの関与:ラットの給餌/摂食行動におけるハロペリドールの効果(*3)」というアメリカのエモリー大学の研究者から1988年に公表された基礎研究です。

まず基礎知識としてハロペリドールについて説明しますが、古くから使われている薬でドーパミンD2受容体をブロックする作用があることで知られています(*4)。特に脳内のドーパミン受容体刺激を抑制することでせん妄を抑えたり、精神科では統合失調症や躁うつ病、ジスキネジアなどといった疾患に用いられる薬剤です。今回紹介する研究は動物実験なので、こういった疾患の概念は置いておいて“ハロペリドールは脳内のドーパミンの働きを抑える物質”という点だけ頭に入れておいてください。

今回の実験では、“ラットの摂食行動においてドーパミンの作用をブロックするとどのような変化が起こるか”というテーマが主題です。最初の実験方法では、52x33cm高さ33cmの飼育箱に1匹のラットを入れて観察されました。床は三つのエリアに区分けされており、ラットがエリア間を移動するとスイッチが入り動き回る回数がカウントされる仕組みになっています。給餌時間(セッションと呼ぶ)は30分で、30秒毎(FT:固定時間=30)に小さな餌ペレット(餌の小片)が決められた餌台に自動的に支給されます(図1A)。これを数日間繰り返し、日毎の活動性のカウントが変動しなくなった時をベースラインと定義しました。ベースラインの状態から、FT(給餌間隔)を30秒、60秒、120秒、360秒、給餌なし(Extinction)と数日毎に変えていき、FTと活動回数の関連をグラフにしたのが図1 Bです。この実験は6匹のラットを観察しましたが、FTのスケジュールの順番はランダムに変更されました。

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図1Bを見ると、ハロペリドールが投与されてない通常の状態ではいずれのラットにおいても、給餌間隔が短いほどカウント数が多く(=よく動き回る)、給餌間隔が長いほどカウント数が少ない(=あまり動き回らない)という基礎データが得られています。

次の実験ではFT=30秒に固定された状態でハロペリドールをラットに投与し、ドーパミンの作用を抑制した状態で給餌と活動性の関係が観測されました(図2)。

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図2Aを見ると、ハロペリドールが投与されないラットでは高い活動性が維持されていますが、ハロペリドールの量が多くなるにつれて明らかに活動性が低下していることが分かります(図2A:p<0.01←p値が小さいほど統計学的に有意に差がある)。30分のセッションのうち6分毎に時間を分けて観測したデータが図2Bに示されています。やはりこちらでもハロペリドールの量が多いほど活動性が低下することが示されています(p<0.01)。傾向としても、30分のセッションの最初や最後だけ落ちているというわけではなく、全体的に活動性が低下していることが分かります。ドーパミンがブロックされることでセッション中ずっと活動が抑制されていることが示されています。

今度は、先の実験と異なり4.6m x 2.3mという広い部屋の中でラットの行動が調査されました。餌場は部屋の壁際や中央部など各エリアにまんべんなく配置され、餌場の形状も数種類用意されました。餌は1.5gのペレット2個をランダムに選ばれた3箇所の餌場に置き、これをラットがどのように食べるか、その行動パターンが観測されました。そして先の実験と共通して、ハロペリドール投与なし、0.1mg/kg、0.2mg/kg、0.4mg/kgとそれぞれ投与量を変えて実験が行われました。

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結果が図4ABに示されていますが、ハロペリドールを投与すると摂食量が明らかに減少していることが分かります(図4A: p<0.01)。また、食事をしている時間もハロペリドール投与の多いラットで有意に減少する結果が観察されました(図4B: p<0.01)。

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この他にも通常のラットに対してハロペリドール投与ラットで観測された行動では「中央の餌場へのアプローチが減少(p<0.01)」、「餌場へ近づいた回数の減少(p<0.01)」、「餌場に登る回数の減少(p<0.05)」、「食べかけの餌ペレットの数の増加(p<0.05)」、「摂食の平均持続時間の減少(p<0.01)」、「60秒を超える摂食動作の回数の減少(p<0.01)」、「摂食動作の回数の増加(p<0.01)」、「摂食場所の数の増加(p<0.01)」、といった明らかな変化が観測されました。

これらのラットの行動変化を考察すると、ハロペリドールによってドーパミンの作用が抑えられたラットは「餌を食べる」という行動に対する動機づけが低下している結果が得られました。そして「餌を食べる量」「餌を食べている時間」も実際に明らかに低下していました。また、「餌を食べる動作」が持続できなくなり「食べ残し」が増えたり、「短い摂食時間を何度も繰り返す(数は増えるが摂食量は低下)」という行動パターンに変化していました。同様に、部屋の中央に置かれた餌や台の上に登らないと取れない餌など、「困難や障壁に対して消極的な行動になる」ということもデータに表れています。

この実験から、哺乳動物において脳内ドーパミンが抑えられると「やる気・意欲といった原動力が低下する」、「目的行動を行う時間が少なくなる」、「行動を持続したり、最後まで実行することができなくなる」、「目的に対して困難を乗り越えることができなくなる」ということが示唆されました。

今回の研究は動物実験における脳内ドーパミンの機能解明ですが、我々人間の生活行動においても大いに関係がありそうですね。脳内ドーパミンを増やすには先の記事で紹介したように様々な瞑想によってもドーパミン経路を活性化できることが分かってきています(*2)。ドーパミンの機能をよく理解して脳内環境を活性化し、自分自身の生活もより良くしていきましょう。


(著者:野宮琢磨)

著者プロフィール

野宮琢磨 Takuma Nomiya 医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用
*1. 脳内物質ドーパミンと恋愛脳について https://note.com/newlifemagazine/n/nd28a751e35cb?magazine_key=mb580e4b26aa4
*2. リラクゼーション瞑想と脳内物質ドーパミンについて
https://note.com/newlifemagazine/n/n67caa776ea39?magazine_key=mb580e4b26aa4
*3. Salamone JD. Dopaminergic involvement in activational aspects of motivation: Effects of haloperidol on schedule-induced activity, feeding, and foraging in rats. Psychobiology, 16(3), 196–206. 1988
*4. https://ja.wikipedia.org/wiki/ハロペリドール 

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