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リラクゼーション瞑想と脳内物質ドーパミンについて

前回の記事では、恋愛状態の脳とドーパミン分泌の関係を研究した論文を紹介し、恋愛脳では前頭葉でドーパミンの分泌が活性化されていることが示されました。今回はそのドーパミンに関連した、瞑想とドーパミンに関する別な研究を紹介したいと思います。

研究タイトルは“Increased dopamine tone during meditation-induced change of consciousness. (瞑想によって生じる意識の変化におけるドーパミン活性の増加)*1”で2002年にデンマークのKjaer氏という研究者によって発表された論文です。この研究の主旨を端的に示すと、“リラクゼーション瞑想によって脳内の特定部位におけるドーパミン量はどのように変化するのか”を検証したものです。

少し掘り下げて説明しますが眠くなる方はこの部分は読み飛ばしてもらって構いません。この研究者らはこれまでの研究から、脳の線条体(せんじょうたい)という部分に着目しています。線条体とは図1に示される脳の構造の一つであり、運動機能への関与が最もよく知られていますが意思決定など認知機能にも関与しているとされています(*2)。線条体に存在する神経細胞の95%が中型有棘ニューロン(MSNS)と呼ばれ脳内物質のGABAやグルタミン酸、ドーパミンなどによる制御を受けていると考えられています。この線条体の神経細胞は興奮性活動の直接路と抑制性活動の間接路に大きく分かれていて、ドーパミン/ドーパミンD2受容体刺激が抑制性活動に関与していると考えられています。研究著者らは今回のような完全に力を抜いた弛緩瞑想においては運動抑制性のドーパミンD2受容体の活性化が関与しているのでは、という仮説を立てています。端的に言うと「“瞑想中に脳内で様々な活動をしているのに体は動かさない状態”では線条体ネットワークの一部が非常に活性化しているのではないか」ということを検証しています。

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本題に戻りますが、この研究ではリラクゼーション瞑想として“ヨーガ・ニードラ (Yoga Nidra)*3”が用いられました。ヨガは皆さんご存知だと思いますが、その中で“ヨーガ・ニードラ”とは「眠りのヨガ」とも呼ばれるようで、睡眠状態と意識覚醒状態の中間のような状態で行われている誘導瞑想のようなものとされているようです(より詳しく知りたい方は下記引用を参照してください)。一般に連想される難しいポーズをとったり片足でバランスを取るような身体を使ったヨガではなく、できるだけ力を抜いて仰向けになって寝るようなリラックス状態で行うヨガのようです(写真:*4より引用)。

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この研究の被験者はコペンハーゲンのヨガ瞑想学校の31歳〜50歳の8人の男性瞑想教師で、いずれも7年〜26年ほぼ毎日瞑想を経験している熟練者です。実験の内容は、被験者に対して11C-ラクロプライドという物質を注射して脳の様子をPET-CT撮影しました。11C-ラクロプライドという物質はドーパミンと脳内で拮抗する物質で、簡単に説明すると“ドーパミンが多く分泌される場所で11C-ラクロプライドの集積量が少なくなる”という性質があります。詳しくは前回の記事に図解入りで説明していますのでそちらも参照してください(*5)。

このPET撮影は1名の被験者に対して別々の日に2回行われました。1回は横になり“ヨーガ・ニードラ”というリラクゼーション瞑想を行いながら撮像されました。被験者はこのときヘッドホンを使用して瞑想の音声ガイダンスに従って72分間の瞑想状態を維持します。もちろん瞑想教師なので眠りに落ちずに瞑想状態を持続しました。そして、瞑想開始から7分後に11C-ラクロプライドが注射され、ここから約85分間脳のスキャンが行われました。もう1回はコントロール(比較対象)実験で、同じ音声ですが瞑想とは関係ない内容のスピーチがヘッドホンから流され、被験者は瞑想状態に入らずにこのスピーチに傾聴するという方法で撮像されました。PET信号は5箇所の関心領域:右尾状核(びじょうかく)、左尾状核、右被殻(ひかく)、左被殻、腹側線条体、で計測され、薬剤の注射や撮影時間などは同じ条件で行われました。

この実験中に脳波の測定も行われ、シータ波帯域(4〜7Hz)とアルファ波帯域(8〜13Hz)の平均パワーが計算されました。脳波に関しては本実験と対照実験両方ともデータが計測可能であった5名について解析されました。そして8名とも各検査の後には、喜び・リラックス度・瞑想の質・深さ・達成度などに関してアンケート回答による評価が行われました。


8人の瞑想教師において瞑想中・非瞑想中のPET信号の強度を比較した結果では、右尾状核/左尾状核/右被殻/左被殻では有意な変化が無かったものの、腹側線条体では平均マイナス7.9%と瞑想中で有意な信号低下が見られました(p<0.013)。8名のうちの一人のPET画像を図3に示しますが、スピーチを聞いている状態(A)に比べて瞑想状態(B)では信号が低下していることが分かります。前述の通り11C-ラクロプライドの集積(PET信号)が低下したということは、“その部位のドーパミンD2受容体にドーパミンが多く結合していた”ことを示唆しています。

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次に、実験中の脳波と11C-ラクロプライド置換率の関係は図4の様になりました。図4Aで見られるとおり、ラクロプライド置換率が高い(=ドーパミン分泌が多い)ほどシータ波成分が高いことが示され、反対にラクロプライド置換率が高いほどアルファ波成分は低いことが示されました。一般に“何かに集中しているとき”はアルファ波成分が高くなり、“瞑想状態”ではシータ波成分が高くなることが知られていますが、この実験では“意識がシータ波状態(瞑想状態)になるほど線条体のドーパミン分泌が活性化される”ことを科学的に示しています。

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瞑想後のアンケート結果を図5に示します。これは“通常の横になった休息状態”を基準として、“行動に移る準備”、“頭の中の視覚イメージ”の程度に関する被験者の回答です。“行動に移る準備”は通常の休息状態に比べて“非常に低い”と回答する人が多く(p<0.05)、“頭の中の視覚イメージ”については休息時に比べて“非常に活発”(p<0.05)と回答した人が多いことが分かります。この結果からも、リラクゼーション瞑想(ヨーガ・ニードラ等)は“ただ横になるだけ”とは明らかに違う状態になっているようですね。

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今回の研究結果をまとめると、

・リラクゼーション瞑想と"横になって休んだ状態”は全く別である
・意識的に筋肉の緊張を取りつつも脳で活発にイメージを行うことが弛緩瞑想のコツ・リラクゼーション瞑想によって線条体ドーパミン代謝の活性化が裏付けられた
・脳波が瞑想状態(シータ波)の時ほど線条体ドーパミン活性が高い(反対に寝ながら何かしていたり睡眠状態では瞑想効果があまりない)
・瞑想中では脳内での可視化・ヴィジュアライゼーションが活発である・瞑想と睡眠(休憩)の違いが科学的に検証された

ということが言えると思います。

いかがでしたでしょうか。瞑想というと中には「毎日横になって寝ているから別にやらなくても良いのでは」と思う方もいるかもしれませんが、同じ体勢でもその意識状態によって脳の内部はかなり違った状態になるようです。“瞑想は休憩とは違う”ことを頭に入れて“積極的に何もしない瞑想”というものを実践してみると脳にも変化が起こるかもしれません。

(著者:野宮琢磨)

著者プロフィール
野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士

臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用
*1. Kjaer TW, Bertelsen C, Piccini P, Brooks D, Alving J, Lou HC. Increased dopamine tone during meditation-induced change of consciousness. Brain Res Cogn Brain Res. 2002 Apr;13(2):255-9. doi: 10.1016/s0926-6410(01)00106-9.
*2. https://ja.wikipedia.org/wiki/線条体 

*3. Yoga Nidra:https://en.wikipedia.org/wiki/Yoga_nidra
*4. https://www.openfit.com/what-is-yoga-nidra
*5. 脳内物質ドーパミンと恋愛脳について https://note.com/newlifemagazine/n/nd28a751e35cb

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