小説 会えなくなった夢の中のあいつ
小さい頃良く見た夢。
本家のお屋敷の庭で、おれが一人で遊んでるとあいつが出てくる。
小さなゴブリンに猫のような耳が折れていて、目付きが悪い。
ハリー・ポッターのドビーを初めて見たときはビビった。そっくりで。
数年後、クリーチャーが映像化されたときはそれはもう衝撃だった。
まさしくあいつ。なぜだろう。
「20年も経てば君もここに住むんだろう?」
何も言ってないのにあいつは嫌なことを聞いてくる。
「興味ないよ。おれはちっこい今のマンションが好きやねん。」
本音だ。
ちょっとやり取りをして夢が終わる。
また違う日の夢では、
「嫌なのは君のものじゃないからだろう。大人になればこの屋敷全部、君の家なんだぜ?」
「いらんよ。おれが大人になったらお嫁さんと一緒に遠いとこに家を建てたいねん。」
こんなことは家族やおばあちゃん達には絶対に言えない。
おんなじようなやり取りの夢も何度も見たりする。
やはり夢なのでそこでは違和感を感じない。
またまたある日の夢。
「でも君はどこかでそんな自由は無理だと知ってる。だからこそ…」
「うるさいなぁもう。まずおまえここの妖精かなんかなんやろ?なんで標準語やねんな。」
何故だかこの気味悪い生き物の存在自体には、全く疑問を持たなかった。
ちびっこの特性なのか。夢ってそんなもんだったりするけど。
11歳の時、おれのおじいちゃんのおじいちゃんのそのまた…400年以上同じとこに住んできたお屋敷は、維持が不可能になって潰れた。
おんなじ小さな村の中で、元々人に貸してた一軒家が空いたのでおばあちゃん達はそこに移った。
100坪程の十分な家だったけど、お父さんはおれに仕切りに謝った。
「おまえに残してやれんかったのはおれのせいや。ごめんなぁ。」
それからも夢の中では何故かたまにおれはお屋敷で遊んでた。
やっぱりあいつが出て来る。
「私の見立て違いってやつだねぇ。これで自由ってやつかい?」
「あー。おまえも引っ越しすんの?」
「君は心の底ではまだまだ…」
「質問にそーゆー答え方したあかんで。」
中学に入ると、世の中の人達にはどうやら「本家」とか「跡継ぎ」みたいな概念が無い場合が多いことを知った。
友達と「ファミレス」というところにいくと、給食では気づけなかった、我が家と世間の違いに気が付く。
「お坊っちゃんやなぁ(笑)」
「ええとこの子やん〜(笑)」
とっても辛くてなんとか彼らの真似をする。
それはそれで様にならなくてダサい。
1年も経つと、なんとなく諦めを知る。
おれはこの家の人間なんやなぁ。
そんな風に自分に言い聞かせるようになった頃から、あいつに会えなくなった。
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