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気になる本たち「感性に従え!」

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自分の書評、気になった書評をまとめています。
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2020年3月の記事一覧

[114](20/100)やばい作家に出会ったようだ『グローバライズ』(木下古栗)

[114](20/100)やばい作家に出会ったようだ『グローバライズ』(木下古栗)

この本は、12篇の短編からなる一冊。

短編一つ一つは、始まりは穏やかなんだけど、最後はだいたい、エロがグロにたどり着く。やばい。

こういう落差があるというか、最後に行き着く先がわかっていて、そこにたどり着いたときになにかが昇華されたような恍惚とした感情を得たいというのは、じつは小説の真髄なのかも知れない。

読みながら、不快感を感じながらも、つぎの短編ではエロ、グロな結論にたどり着くことを期待

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[110](19/100)じつは仏教説話だったかも『鳥打ちも夜更けには』(金子薫)

[110](19/100)じつは仏教説話だったかも『鳥打ちも夜更けには』(金子薫)

古典『見聞録』で「楽園」と記された架空の街。三色の花をつけるネルヴァサの花とその葉を食べ蜜を吸う美しい蝶アレパティロオオアゲハがこの街のシンボルだ。

そのシンボルを守るため、アレパティロオオアゲハを捕食してしまう海鳥を吹き矢で殺す仕事を任された3人の男たち。架空の街の通りの名前も地区の名前もカタカナなのに、この3人の名前は、天野、沖山、保田と日本名だ。

仕事をしていくうちに、生き物を殺して生計

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[106](18/100)「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない」『私の消滅』(中村文則)

[106](18/100)「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない」『私の消滅』(中村文則)

僕が読みたいと思う本の選び方は直感的だ。SNSやHONZなどで「を、いいね」と思える本を、地元の図書館ホームページで予約する。予約順に読めるので、人気の本は忘れたこと順番が回ってくる。

今回図書館から連絡が来たのがこの本。中村文則さんかぁ。『教団X』の人だ。。。『教団X』意味わからん本だったんですよね。

さて今回の『私の消滅』
自分が他人と入れ替わる。それはなりすましのような種類のものではなく

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[104](17/100)人類の存在は失われてしまうのか?『私の恋人』(上田岳弘)

[104](17/100)人類の存在は失われてしまうのか?『私の恋人』(上田岳弘)

「私」はいま、3周目だ。一周目はクロマニヨン人の時代、二週目はナチスドイツの時代、そして現代だ。

人類の歴史に連綿とつながる「私」とはなにか?

この本の大部分は、この「私」について描かれてきている。僕の理解では、この「私」とは人類がクロマニヨンの昔から持ち続けてきた「人類のDNA」だろう。しかし3周目の現代、そのDNAを手放そうとしている。

あなた方人類が、あなた方を超える知性を生み出すとい

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[100](16/100)パラサイトはドキュメンタリーか『韓国 行き過ぎた資本主義』を読む

[100](16/100)パラサイトはドキュメンタリーか『韓国 行き過ぎた資本主義』を読む

2017年05月ムン・ジェインが大統領となって、この国は大きく変わってしまった。

韓国は財閥中心に経済が動く社会だ。以前から大卒とそれ以外の経済格差が大きかった国だが、財閥大企業の会社員の半分が毎年契約を更新する契約社員だという。

年を追うごとに「持てるものと持たざるもの」の差が広がっている韓国。

この本を読んだ後に

映画『パラサイト』は現実なんだなぁ

という思いが広がって、

この国大

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(15/100)キライな登場人物ばっかりだ【夏の裁断】(島本理生)

(15/100)キライな登場人物ばっかりだ【夏の裁断】(島本理生)

読み始めから、登場人物にイライラする。

最悪なのは柴田だ柴田は初対面から千紘に馴れ馴れしい。二人っきりになると急にキスしてきたり、触ってきたり。でもセックスしたい素振りもなく、千紘を振り回す。こんな男いたよなぁ、と思い出してムカつく。アノヤロウ。

千紘も千紘だ幼いときに性的虐待を受けていたトラウマもあるのだろう。プレッシャーをかけてくる相手に対する最大の防御は、それを受け入れることだと学習して

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(14/100)シュウジ・マヤマが1989年に見た東欧『革命前夜』(須賀しのぶ)を読む

(14/100)シュウジ・マヤマが1989年に見た東欧『革命前夜』(須賀しのぶ)を読む

1989年は、日本も世界も転換点の年だった。

1月 日本 昭和天皇崩御
6月 中国 天安門事件
10月 ハンガリー 社会主義を放棄
11月 ドイツ ベルリンの壁崩壊

この物語の舞台は、この年の東欧。

日本人シュウジ・マヤマは、バッハのピアノの音に惚れ込み、その真髄に触れたいという純粋な気持ちで東ドイツのドレスデンに留学する。

ドレスデンは音楽都市だ。面積330k㎡、東京23区の半分ぐら

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(13/100)「バカだねぇ」が褒め言葉になるオトナになりたかった 『人生の諸問題 五十路越え』を読む

(13/100)「バカだねぇ」が褒め言葉になるオトナになりたかった 『人生の諸問題 五十路越え』を読む

エッセイスト・社会評論家で、「この人の文章はすごい」と思う人が二人います。

一人は大塚英志さん。彼はサブカルやオタク文化の評論家というイメージが強いですが、他の評論家と違いベースに民俗学的思考があるため視座がスルドイ。筑波大学で柳田國男の孫弟子だったことが財産となっている文章です。

もうひとりは小田嶋隆さん。いつも本質を意識した文章を書き、説得力が在る。世の中が気づいていないようなことを、さら

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