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(14/100)シュウジ・マヤマが1989年に見た東欧『革命前夜』(須賀しのぶ)を読む

1989年は、日本も世界も転換点の年だった。

1月 日本 昭和天皇崩御
6月 中国 天安門事件
10月  ハンガリー 社会主義を放棄
11月  ドイツ ベルリンの壁崩壊

この物語の舞台は、この年の東欧。

日本人シュウジ・マヤマは、バッハのピアノの音に惚れ込み、その真髄に触れたいという純粋な気持ちで東ドイツのドレスデンに留学する。

ドレスデンは音楽都市だ。面積330k㎡、東京23区の半分ぐらいの広さにも関わらず、毎日街のどこかで演奏会が行われ、それらが無料のことも多い。世界中から超絶技巧によって自在に音楽を奏でる学生が集まり、芸術性を競う。シュウジは留学するやいなや、そんな高い芸術性と音楽の裾野の広さに圧倒される。

教会のオルガンを巧みに弾きながらも西欧への脱出を目論む女性クリスタ、ヴァイオリンを自由に操るだけでなく芸術的にも強い影響を与え続けるハンガリーからの留学生ラカトシュ、東ドイツ軍に4年仕官し生涯の安定を得ているヴァイオリニストのイェンツ。

はじめは彼らの音楽性を中心としたしのぎあいで話は進む。しかしシュウジも東欧での生活に慣れるに従い、シュタージの存在に気づき始める。身近な人がシュタージであることに驚き、社会主義のご都合にうろたえる。

小説の後半は、ハンガリーのショプロンが舞台。

街の三方をオーストリアに囲まれたショプロンは、社会主義を放棄するハンガリーの象徴となった街だ。この街が国境を開放したことをきっかけに社会主義は崩壊していく。

出来事ひとつひとつに翻弄されるシュウジ。しかし登場人物は皆、世の中がどんなに荒れて分断されても、音楽への執着は捨てなかった。クリスタは西ドイツの教会でオルガンを弾きはじめる。ラカトシュは負傷の傷からヴァイオリンを諦める代わりにオーケストラの指揮者を目指す。

ヨーロッパの人たちの音楽への思い、執着の深さ。時代や世情に流されない不変なものとしての音楽。日本にはない文化的深さを見せつける一冊。

小説のあちこちに、バッハを中心としたステキな協奏曲が使われています。一部を紹介しておきます。

ラフマニノフ絵画的練習曲『音の絵』
バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第一巻
四番嬰ハ短調BWV849
バッハ『神の時こそ、いと良き時』
バッハ『深き淵より、我、汝に呼ばわる』

これら挿入されている曲をyoutubeで再生しながらの読書は、いつもとちょっと違った体験でした。

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