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『狐笛のかなた』

やふぅー٩( 'ω' )و
今回は、本の紹介をします。

感想から、ネタバレありで書く。

上橋菜穂子著 『狐笛のかなた』 (新潮社 、2006)


この本も初めて読んだ時には、入り込みにくい世界観と、文章で苦労した。
本書をあまり読み返していないので、最初は「これ本当に読んだか?」とさえ思った。

上橋菜穂子先生は、生命に言及する物語を書くことが多いのだろうか。
正直、本書は記事に書くのが難しかった。
文章や世界観は間違いなく美しいのだけれど、主軸となるような部分が、私に刺さっていないのだ。
読書後も全体的に、ふわふわしている感じを受ける。

しかし、やっと1つかろうじて捉えられたので記事を書く。



ざっくりあらすじ

里から少し離れた所に祖母と住む、小夜。
彼女は「聞き耳」という、他者の声を聞くことが出来る。

傷ついた小狐を助けた時に、ある少年と会う。
理由は分からないが、少年は夜に屋敷を抜け出すことを、誰にも知られてはならないと言う。
少年としばらく隠れて会うようになるが、それも続けることが難しくなる。
祖母が亡くなり、小夜は1人で生きていく。

彼女の住む土地を隔てた、もう1つの土地。
2つの勢力争いが行われている中、「聞き耳」を持つ小夜は、ある時を境に自分自身の過去を知り、勢力争いに巻き込まれる。


感想

この物語は本当に美しいが、本当に記事に書きづらい。
そういうわけで読書後、本から完全に離れて考えてみた。

1番大きく感じたのは、もちろん世界観の美しさだ。
次に感じたのは、怒りだ。
怒りや怨みは、本当に良いものを生じさせないのだと、つくづく思わされた。

領地や勢力争いなど、心底どうでも良い。
勢力争いに巻き込まれて犠牲になるのは、弱い者だ。
希少なスキルを持つ弱い者は、時の権力者に利用される。

この本を読むのは、多分3回目。
初めて読むような感覚になるほど、曖昧な記憶で読んだ。

今回、初めて小夜を可哀想だと思った。
理由を知るのは、だいぶ後になってからだが、里の子たちと離れた所に祖母と二人きりで住んでいた。
物心着く頃には両親がおらず、唯一共にいた祖母も死ぬ。
本当に孤独じゃないか。
そして、寒々しい世界。

そこに現れた小春丸は、小夜と同じように勢力争いの被害者でもあるだろう。
きちんとした理由も知らされず、屋敷に閉じ込められている。
いや、知らされても受け入れられならなかったのだ。

小夜ともっと一緒に過ごせる時間が長ければ、小春丸だってあんなに心に闇を抱えなかっただろう。
孤独というのは、本当に恐ろしいものだ。

力ある者が、「お前のためだ(だった)」という、自分の正義を振りかざす。
その一言で、終わらせようとする。
時間は戻らないし、あまりにも無責任だ。
なんともやるせない、悲しい気持ちになる。

小夜は、母の知り合いの慮りで、自身の母が死んだ時の記憶を消されている。
よって、その時を思い出すことからの恐怖や辛さはないが、母を思い出すこともない。
記憶を消されているから、不可能であったと書くべきか。

「守る」ということも、相手を思うことの「配慮」も一歩間違えると、取り返しのつかない危険性を持つ。
これこそ、一種の呪いのようなものではないかと思う。
それと知らずに押し付けられた弱い者にとっては、なんと理不尽なことか。

小夜は最後、ほとんど狐となって最初に助けた小狐の野火と家族になる。
それが幸せなのか、何度読んでも(物語の記憶ほぼ飛んでいたが)分からない。

誰かの言葉なんだろうか?
悲しみは美しい。
孤独は悲劇だ。

これを思い出した。

『狐笛のかなた』は、ファンタジーの世界の話だ。
しかし、権力者によって残酷で理不尽な目に遭うことは現実にもある。
野火のように、生まれながらに、その役割が決まっていることもあるかもしれない。

美しさと同等に、どうしようもない気持ちにもなる。
もちろん、おすすめの一冊!!


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