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眠る前に読む小話

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眠る前に読む一言小話です 読者になっていただけるととてもうれしいです。
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#エッセイ

異国でみるべきはツイッター?インスタグラム?

遠い異国の首都からさらに飛行機を乗り継いでたどり着く街で宿をとる。

「とれるチケットならどこでもいい」と考えた旅行だったけれど、思ったよりもワイルドな街に降り立つことになった。英語もうまく通じないし、そもそも空気だって日本と違う。水が国によって異なるように空気だって国によって異なるものとなる。アジアの島国に降り立つ時に南国の匂いが鼻孔を驚かせるように、異国の空気は肺を驚かせる。「なんかきたよ」と

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14106と言って

「14106」という言葉が世の中を騒がせるころ、僕は高校生だった。そして初めてのデートを経験することになった。

当時は、ポケットベルという数字を送り合う端末が登場し、学生たちはこぞって持ち始めた頃だ。それまでは、デートの誘いは、相手の実家に電話をしなければいけなかった。誰しも「親に電話を切られる」という洗礼を受けていたものだ。

愛しているという意味を込めた「14106(この数字の読み方を語呂合

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ポケベルが残してくれたもの

2018年12月に、ポケベルが終了した。1990年代の後半に流行ったサービスで、お互い数字を送り合うことができるものだった。とはいえ、ポケベルは数字を受け取るだけの機能で送ることはできない。だから、僕たちは公衆電話からその番号を送りあった。

ポケベルはたくさんの思い出を僕たちにくれた。それまで、家には家庭の電話しかなかった。友人とコミュニケーションをする時は、そこに電話をするしかなかったのだ。家

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下書きに残ったメール

下書きに残ったメールを眺める。週に何度かは見返して文章を修正するけれど、まだ「送信」ボタンが押されていないメール。切手をはられてまだ封をされていない手紙のよう。

毎回、見返すたびに「こういう表現がいいな」と書き直す。文章って本当に難しいな、と思う。夜みる文章と朝みる文章は違う。タイピングをしてかじかんだ手を「はー」っと息で温めながら、そんなことを考える。

彼女と会ってから2年以上もたつ。最初は

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今年の抱負の宛先

年始から、「今年の抱負」をFacebookなんかにアップして。誰も人の抱負なんて興味ないっつーの。抱負を書くくらいなら、自分の手帳にかいておけよ。

コメント欄には、「がんばってください」「いい抱負ですね」とコメントが並ぶ。

そこに取引先の相手の抱負もあがる。少し考えて「接待いいねでもするか」とLikeをおす。

そんなにみんな抱負があるものかね。「今思いついたそれっぽいことを書いてます」大会な

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2050年、ついに他人の脳を体験できるように

2018年、Oculus Goが販売された。従来より廉価でVRを体験できるその端末によって、多くの人がVRを体験できるようになった。それによって、家にいながら、旅行を体験できるようになった。ジェットコースターも体験できるようになったし、ゾンビ退治など、現実の世界で体験できないことも、実体験のように感じることができた。身体が不自由な人でも、飛行機がのれない人でも、そんなことを気にせず世界中を飛び回れ

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LINEでの挨拶と年賀状の挨拶の違い

新年をすぎると「あけましておめでとうございます」とLINEが飛び交う。

なぜ、この人は私のLINEのアドレスを知っているのに、Facebookメッセンジャーで送ってくるんだろう。あ、Facebookの方がパソコンから送りやすいからか。たくさんの挨拶を送るには、携帯から送るよりもPCから送る方が送りやすい。なんだ。

年賀状を手書きで書いていたころを思い出す。当時は、1枚1枚絵を描くという苦行のよ

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Talk over a crab

「ねえ。焼肉を食べるカップルって、身体の関係があるカップルって言うじゃない」と、女が蟹の身を箸でつまみながら言う。

「そうだね。そんな話、聞いたことがある」、横に座る男がお猪口を口に運びながらこたえる。

「でもさ、蟹の方がそんな気がしない?カニの方が身を出している時はお互いしゃべらないし、食べている時はなんだかベタベタだし、蟹を食べているカップルの方が、身体の関係ある気がしない?」

「確かに

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婚活のおける合理性と非合理性の矛盾

私、考えたのよ。あなたは合理的な人間。生き方も合理的であろうとする。結婚相手も合理的に探そうとする。

自分が譲れない条件を決めて、あとはできるだけ多くの人に合う。コンパや結婚紹介所、出会い系サイト、クラブ。

でも、それだけ多くの人と出会ってると、「この人いいな」と思える人と出会っても、「もっといい人がいるかも」ってなるよね。

そう考えると、あなたのように合理的に結婚活動をしている人は実は結婚

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なぜ彼らはインターネットに殺されたのか?

2017年、ついに脳波で操作するパソコンが実用化されました。

脳に埋め込むタイプではなく、頭皮上に電極をおくヘッドセットタイプです。

利用者はそのヘッドセットを通じて、脳波による指示をパソコンに送ることができるようになりました。パソコンは、その依頼を受け、メールの作成や動画の再生、パソコンのオンオフなどができるようになったのです。

アーリーアダプターとして、それらのヘッドセットを使い始めたの

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ハンバーガーを毎日食べる男とハンバーガーが嫌いな女

「アメリカでは、インアンドアウトという美味しいハンバーガー屋さんがあってね」と、サダさんが喋る。

まさかこの人が、こんなにハンバーガーが好きだったなんて。

サダさんは、延々とインアンドアウトバーガーがいかに美味しいかを力説する。レタスのシャキシャキがすごいんだよ、と。私は、そのレタスは紀伊国屋の閉店後に調教されたレタスかしら、と考える。

インアンドアウトが素晴らしいのはわかった。ただ、問題は

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ifもしも、あなたが浮気している時に、妻の浮気を見かけたならば。

ナオトは、雨の中のターミナル駅の商店街を浮気相手と歩いていた。すると、前方から知った人が歩いてくる。距離としては200メートルくらい離れているだろうか。ナオトの妻だった。しかし、ナオトの妻も男性と寄り添って歩いていた。腕を組んでいた。ナオトも浮気相手と腕を組んでいた。

ナオトと妻は目があった。とっさに透明傘を前に倒したのは妻の方だった。夫が思わず立ち止まったら、浮気相手が「どうしたの?」と話しか

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黒板に文字を描くのがとてもきれいな女の子の話

昔々、あるところに女の子がいました。その女の子は黒板に文字を描くのがとても上手でした。あまりにも上手で、彼女が黒板に描いた算数の回答は、間違っていても、正解にされることがあるくらいでした。先生がその文字の美しさに見とれて、うっかり正解にしちゃうんでしょうね。

学校も、市の書道コンクールに彼女の板書を送ろうかと悩んだほど美しい文字でした。ある時は、いたずらっ子たちにせがまれて彼女が黒板にきれいな女

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ストーカーは何を追いかけるのか

「ねぇ、ストーカーされたことってある?」

- うーん。ないかなぁ。

「私はあるの。大学生の頃」

- どんな風に?

「私が行くところ、どこにでもその人がついてきていたの。たとえば、スーパーに行って振り返ればその人がいたし、部屋を出て道を見渡せば、その人の車があったの。もちろん、たまにはいない時もあったけど」

- それ、怖くない?

「最初は怖かった。でも、その人は何もしてこないの。何もして

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