見出し画像

おれたちの新春シャンソンショーの話

(※登場人物には全員掲載許可をもらっています)

2024年1月某日、私はかつてないほどの気合を入れて都内のカラオケ店に向かった。『新春シャンソンショー』のためである。

新春シャンソンショーとは、
毎年始めに4人のアラフォー女性によって行われる、手っ取り早く言えばただのカラオケ大会だ。

私含むメンバー4人は同じバンドサークル出身で、音楽はそれなりに聴いてきたはずだが、
毎年行ううちにいわゆるバンドの曲を普通に歌うのではなく”何か一芸を仕込んでいくこと”が通例となっていた。

部屋に入ったA子、B佳、C美、そして私はすでにボルテージがMAXになっていた。去年コロナの影響で開催できなかったこともあり、全員例年よりも気合が入っていた。

A子がマイクを握る。
「ちょっとそのテーブルどかしてもらっていい?」
広いスペースを確保したA子がおもむろに入れたのは『あんさんぶる体操!!』。
A子はしばらく会わない間にソーシャルゲーム『あんさんぶるスターズ!』の重度なオタクになっていた。
「今日も元気にはじめるよ~!あんさんぶるたいそ~~~う!!!!!」
画面も見ずに振り付けも完璧に歌い踊る、知らない友の姿がそこにあった。
会場(部屋)のテンションは頂点に達していた。

続いてB佳である。
B佳は年季の入った某男性アイドル事務所のオタクで、昨年は事務所に問題がいろいろとあったためカウントダウンコンサート(略してカウコン)が無くなってしまったという。
彼女の目的は、一人でカウコンを開催することであった。
「大体カウコンは若いグループで始まるから頑張って練習してきたよ!」
前奏で早口の解説を入れた後、6人組アイドルの新曲を歌う。
なんと、全ての歌詞がラップである。
よどみなく歌い終え「これを……これを仕込んできたから……」と爽やかな笑顔。

C美は特に何かにハマっているオタクというわけではないが、この中で唯一今も現役でバンド活動を続けているバンドマンである。
画面にタイトルが表示される。
『罪と罰』
椎名林檎の有名曲である。しかし、C美が直前に衝撃の発言をする。
「これ、Adoがカバーしたバージョンだから!
 ♪ほォ゛ォ゛~~を゛刺すウゥゥ!!!!あ゛さの山手通り゛~~~!!!!!!」
「「「Adoの歌い方!!!!」」」

何順かして、私の中で静かに緊張が渦巻いていた。
私はこの日のために、昨年を代表する難曲・YOASOBI『アイドル』を仕込んできたのである。
リハーサルスタジオと言う名のヒトカラには3回行っている。
「ボイスケアのど飴」を齧り、言った。

「玉砕覚悟で聴いてくれ!!アイドルやります!!!」
「「「玉砕曲いけーーー!!!!」」」

『♪無敵の笑顔で荒らすメディ ア゛ッ!!!!
 ♪知りたいその秘密ミステリ ア゛ッ!!!!』

『♪君は(ハヒッ)最強で(ハヒッ)むーてきのアイドッ!!!!!!!』

サビの高音部分は怪鳥の鳴き声のようになったが、歌い切った。
というか、練習をしすぎて思いのほか歌えてしまっていた。
「いいよ!歌えてたよ!」
「玉砕してないよ!いけてたよ!」
優しすぎる激励の声が上がり、私はやり遂げたのである。

たくさんのあんスタの曲を聴き、カウコンが行われ、バンドサウンドや2023年ヒットチャートに熱中した新春シャンソンショーは
慣例のあゆ(※浜崎あゆみ)『evolution』の合唱で幕を閉じた。

部屋を出て支払いに向かうとき、私たち世代の青春曲・バンプオブチキンの『スノースマイル』が流れていた。

冬が寒くって本当によかった
君の冷えた左手を
僕の右ポケットに お招きするための
この上ない程の 理由になるから

BUMP OF CHICKEN『スノースマイル』

私は思わず、隣にいたB佳のコートの右ポケットに左手をつっこんだ。
察したB佳がA子の右ポケットに、A子はC美の右ポケットに左手をつっこんだ。
アラフォー女性4人のスノースマイルが完成した。

こんな時代に生まれついたよ
だけど何とか進んでって
だから何とかここに立って
僕達は今日を送ってる

浜崎あゆみ『evolution』

元々は早口言葉から借用した「新春シャンソンショー」も、今ではよどみなく発話できるようになってしまった。

結婚しても、子どもが生まれても、管理職になっても
私たちの新春シャンソンショーは続いている。

来年のために、仕込むネタを集める所存だ。


(↓100円で私が歌った曲一覧が見れます)

ここから先は

107字

¥ 100

この記事が参加している募集

ふるさとを語ろう

サポート(投げ銭)していただけるとネムイナの珈琲代になり、起きます 結果として記事が増えます