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南米冒険記。~ボリビア⑥(完)~

「Oh!! … giardiasis......」

『指さしスペイン語会話』を頼りに、異国の医者と意思疎通を図る。”語学は実践”というが、必死に病状を訴えている今この瞬間、脳のインプットとアウトプットはかつてない速度で反復されている。バスで12時間。私たちは、ボリビアからペルーのクスコに陸路で移動した。

ペルー入国後も回復しない体調。5人全員が全く同じ症状。食あたりにしては、さすがに長い。未知の大陸で感染症に罹患したなら、事は一刻を争う。大事をとり、マチュピチュ登頂前に病院に向かうことにした。

クスコの街は、ボリビアのそれとは大きく異なる。街自体が小奇麗に整っていて、セグウェイを操る警察官が巡回している点も頼もしかった。

タクシーに相乗りし、ガイドブックに記載された病院を目指す。

病院に着くと、早速問診だ。

「下痢と熱がずっと続いていて…」英語とスペイン語を単語ベースで組み合わせながら、何とか症状を伝える。外国人向けの救急病院でもあるからだろう、能動的に意思疎通を図る気遣いが身に染みる。

何ステップかの診断を経て、冒頭の”giardiasis”という症名を告げられた。大量の薬を処方され、「必ず飲み切ってね。」と念を押されたので、言うとおりにする。

(見たことのない薬ばかり…)

ホテルに戻り、聞き覚えの無い「giardiasis」について検索してみる。「ランブル鞭毛虫」という寄生虫によって引き起こされる胃腸炎のようだ。症状もきついが、何よりその風体↓が憎らしい。

(ランブル鞭毛中)

感染源は、水やジュース、生野菜など。水はペットボトルのものを買っていたが、最初の頃のレストランで出された何かに紛れていたのだろう。気を付けていたつもりではあるのだが。

水といえば。

ウユニの街での戦いは苛烈を極めた。体力や装備で有利でも、相手は大勢の子供たち。水が当たってもめげずに攻撃してくる逞しさがある。他の日本人観光客とタッグを組んで戦うことにしたが、多勢に無勢。濡れることは避けられなかった。

(首下を泡だらけにされる右側の私。服もびしゃびしゃ。)

(現地で徒党を組んだ戦友たち)

ふと思う。

ああいうことに使われる水も、飲み水ではない。ジアルジア症感染源の1つなのだろう。それを遊び道具に使わざるを得ない子供たち。日本に来たら、いったい何を想うのだろうか。

ボリビア出国時のこと。友人が200ドルをすられそうになった。

国境が混雑していたからではない。相手はスリではない。銃を持った国境の警備員達が、荷物検査中にマジックの要領で堂々とお金をすっていく。これまで多くの人(特に日本人)達を、カモにしてきたのだろう。

その光景を見て、南米人が日々を送っていくことの厳しさと、逞しさを感じてしまう。(荷物検査後に財布の中身をしっかり確認し、「てめえ、ヒトの金盗っただろう!」と日本語で捲し立てる無鉄砲さがあったから、友人はお金を取り返すことができた。)

同時に、どこの国を訪れるよりも強く抱く想い。

日本とは、何と恵まれた、良い国なのだろう。この旅で経験した多くの不自由が、今の日本には存在しない。そのことに、私たちはあまりに無自覚だ。

ペルーからメキシコシティへ戻る機内、隣に座った地元の少年が話かけてくる。アジア人が物珍しいのだろう。

「シェビッチェは食べた?」
「リマ(ペルーの首都)で食べたよ。あれは美味しいね。」
「でしょう。世界一美味しい食べ物だから。」
「将来、日本を訪れることがあったら、”寿司”という食べ物を食べると良いよ。世界一が更新されるかも。」
「へー、そんな料理があるの。それは楽しみ。」

お母さんが、笑いながらスペイン語と英語を器用に通訳してくれる。今、あの少年は17, 8歳だろう。いったい、どこで何をしているだろう。

さて、本題に戻ろう。
ウユニが【死ぬまでに行きたい場所】であり続ける理由とは何か。

「絵」としての美しさ。勿論、その要素は大きい。写真を見返していても、改めて綺麗だと感動する。
でも、それだけではない。

絶景の両端に待ち構える、多くの冒険と困難。過酷な環境。それらが「体験」としてのウユニをいっそう鮮やかに引き立ててしまう。死にそうな思いでたどり着いた先のユートピアとして、心に深く刻まれてしまう。この体験を、他の人にもして欲しいと願ってしまう。

成田空港に帰国し、手荷物を受け取る。再度の長旅で困憊した身体を構わず、足早に、見慣れたコンビニエンスストアへ駆け込む。柔らかいおにぎりと缶ビールが一本。待ちわびた日本が、手中にある。

同じ塩でも。

口に広がる懐かしい刺激をビールで流し込みながら、本当の天国はここにあったのだなんて、ベタな気持ちを恥ずかしくも胸の内にしまい込んで、少しばかり飾り立てたアドベンチャーをSNSに投稿する。

「アミーゴ」と声をかけてきた、あの、うさん臭い行商人の気持ちが、今は少しだけ分かる気がする。

(完)

noteを閲覧くださいありがとうございます。
【①~⑤までは下記より】
南米冒険記。~ボリビア①~(4,000mからのスタート)
南米冒険記。~ボリビア②~(食事とお腹とバス)
南米冒険記。~ボリビア③~(再会)
南米冒険記。~ボリビア④~(JAPANと塩のホテル)
南米冒険記。~ボリビア⑤~(小さなカーニバル)

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