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Kagura古都鎌倉奇譚【壱ノ怪】星月ノ井、千年の刻待ち人(16)

16:かぐら、玉響に涙す


睦月5日。
冬休み終了まであと2日。

学校は他の世界と違って、今が年末のようなものだ。
3月が卒業。4月が入学。
1月から3月にかけてがワンクールの中で最も忙しいと言われている。
普段もほぼ休みなく働いているというのに、更に忙しいなんてどうかしている。
子供たちは勿論可愛いが、ブラック企業の最たるものを教師が見せてしまってどうするんだという話だ。
新学期始まって夏まで部活などを含めて休日が無いという人もいる。
それが学校では当たり前に行われている。


自分が求めていた“教育”とは、このようなものではなかった。
自分が求めた“誰かのために”と思ったことも、こんなことではなかった。

では・・・
自分が求めていたものとは何だろう?
自分が本当に求めていたものとは・・・?




「神楽!お腹空いた!!」
「まだだめだぞ。何も仕事をしてないじゃないか。仕事をしてからだ」
「お仕事っていつ終わるの?」
「仕事は二つの井戸を見に行ったらとりあえず一区切りつくからな」




晴天の1月の太陽は久しぶりにぽかぽかと温かく、散歩日和だ。
材木座の「六角の井」と由比ヶ浜の「星月の井」へ行くので歩いて行くと結構歩くが、そこからこちらへ来る土地を見ておかないといけない気がすると、小舞千さんと狐少女、烏天狗が満場一致で言うものだからこうして彼らと歩いているわけだ。
まずは材木座海岸方面の六角の井からだ。

そして朝からやりたい放題のコレ



「あっと!子龍君。二つの井戸は少し離れているからお昼にならないとご飯は食べに行かないからな?大人しくしてるんだぞ?ここは人通り多いんだから」



その言葉に自分の右の洋服の裾を握っていた子龍がむくれる。



「子龍君って、ヤだ。僕は立派な龍神だぞ神楽!!違う名前が良い!それに、お腹空いた!」
「龍神様。これは急ぎの案件なのです。この件が滞るとまた神楽さんが危険な目に遭うかもしれないのです。どうぞご容赦ください」



左の洋服の裾を掴まれている小舞千がそう穏やかに言う。

・・・そう。
休日の家族状態だ。
そして、それを笑いを堪えながら後ろから付いてきている日和見老人ども。



「えー?名前って・・・っていだだだだだ?!腰!!腰!皮!!
「神楽。今お主悪口を言ったじゃろ?」
「今そんなのどうでもいいからいたたたたた!!!腰ツネるのやめてください!地味に痛い!!



狐少女に腰と言うか、脇腹をつねられてのけ反る。
子龍は大きな頬を持ち上げて、楽しそうに子供らしい笑い声を上げる。



「佐竹さん恥ずかしいので我慢してください!」
「ちょ、小舞千さん。どうにかしてください」



知りません。と小舞千はあのおばあちゃん、藍子さんのようにそっぽを向くが小さく笑ったようだった。

小舞千さんが笑っていると不思議と落ち着く。
逆を言えば、彼女の顔が曇っていたりすると不安になるので、しょっちゅう気が付けば彼女の顔を伺ってしまう。

それにおかしくなって笑うとそれに気が付いた小舞千さんがちらりとこちらを見て“むっ”とするが、それも何だか可愛らしい感じだ。



「お前らもう夫婦だろ?」
「は?!」
「はぁ?」




烏天狗に言われて同じ反応をして振り返るとまた更に大笑いされてしまった。



「龍神様。こういうのを“イチャイチャ”と言うんですよ」
「お前その表現大分古いぞ」
「ではなんと表現するんだ。今時風に言ってみろ神楽!お前にはできないと思うが」
「んだと?大体そういう風に見えたお前の目が腐って・・・」



子龍が急に“あ!”と言ったので何事かと下を見ると、自分と烏天狗を指さして



「イチャイチャだ!」


と、のたまった。
それには女性人たちが大爆笑してしまっていつまでもさめやらなかった。

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ご興味頂きましてありがとうございます。書き始めたきっかけは、自分のように海の底、深海のような場所で一筋の光も見えない方のために何かしたいと、一房の藁になりたいと書き始めたのがきっかけでした。これからもそんな一筋の光、一房の藁であり続けたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。