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【壱ノ怪】星月ノ井、千年の刻待ち人(22)

終章:かぐら、刻待ち人と宴す


成就院にお参りに行った。
と、いうより他の兄弟を探すことにした。
一番下の妹か、下から二番目の弟あたりがいいだろうと目星をつけている。


これまでの事をまとめたパワポ資料をタブレット端末へ送信してあったので、改めて見返してみてからそう結論を出した。
一番下の妹と、下から二番目の弟はここ、鎌倉入りした可能性が高い。
もしくは、最後までこの怨霊と化した長男と一緒にいた可能性が高い。

なので、付近の寺院の誰かが知らないか?
そう思って門を潜ってはいるのだが・・・。



日が高く上り、長谷寺に着いた時には15:56になっていた。



極楽寺、収玄寺、光則寺、長谷寺、鎌倉大仏、高徳院。

何も無かった。

お寺の仏様どなたに聞いても“ここにはいない”と言うばかり。
ならば、とタクシーを引き留めて鎌倉方面、来た鎌倉方面にも回りまくった。建長寺、本覚寺、妙本寺・・・。


小舞千さんと寺を調べて気になる箇所を回った。


タクシーの運転手さんは寺に行ってはものの5分10分で帰ってきてすぐに別な場所に向かう自分たちが気になって仕方ないようで、しきりに何をしているのか?と聞いてきたが、小舞千さんが

「異界の扉を開いて回ってるんです」

と、いい加減うんざりしたのかとんでもない事を言い出した。
確かに急いでいるし、日没まで時間が無い。
彼と話しているならば考察をしなければならない。


だが、である。

それ以来確かにタクシーの運転手はしつこく話しかけてこなかったが、完全にこちらとの交流をシャットアウトした。
絶対にヤバい奴らだと思われた。
むしろ、何かもう居たたまれない空気だ。

やはり小舞千さんは手段を選ばない恐ろしい人だ。
若干イラついてるみたいだし。
タクシーの運転手さん、可哀そう・・・。


しかし、そうまでしても寺では何も得られなかった。


最後の妙本寺で

“長谷に戻れ”

と言われたのでこうして長谷寺に戻ってきたのだが・・・。

“寺じゃないのか?”

長谷寺の展望台にテーブルと寺が出している屋台があるのが見えたのでそこで休憩がてら整理させてくれと小舞千さんに言うと、二つ返事で彼女も着いてきてくれた。もう一度状況を整理する。



母親の記憶からだと残り三人の自分の子供を置いて崖から転落したのだ。

残りの子供は母親の言いつけ通りに鎌倉に向かったに違いない。この怨霊の子が鎌倉にこだわっているのが証拠だろう。



だが、である。


幼子たちだけで山越えし、切通しから鎌倉に来れるのだろうか?



長男は亡くなった次男の事を考えると8歳より上だ。

例えば10歳なのだとしたら当時の観点でいけば可能か?


しかしそもそも。

この怨霊の彼と女性は本当に親子なのだろうか?


未だに子供は彼女を見ようともしないではないか。


無くなったら寺じゃないのか?

もしかして成仏してないのか?




「はい。佐竹さん」




目の前にホカホカの肉まんが二つ。


茶色の木のテーブルの上、小さなお盆に乗って現れた。

コンビニの肉まんより大きめで、見た目ふわふわしてそうなその肉まんはこの寒空の下、湯気を立てて温かそうだ。顔を上げると小舞千さんが目の前の椅子に腰かけ、にこりと微笑んだ。


「お腹空いたでしょう。食べましょう?お寺まんじゅうですって。中はお肉は入ってなくて、野菜ばかりの精進料理って書いてありました!」

「へー!美味しそうですね!ありがとうございます!!
…それで…こっちの・・・大量の団子は?」


そう。

お寺まんじゅうはいい。


だが、その隣に七つの串の団子が別に山盛りになっている。



「あ、えっと。一本だけください。佐竹さん」

「・・・残り六本もありますが?」



六本のおだんごも湯気を立てて自分の前に鎮座している。それと小舞千を見比べていると



「だって佐竹さん、食いしん坊だから・・・」



論点が合ってるようで間違っている!
だが、可愛く言ってるから責められない!!

お金を出そうとしたら“タクシー代受け取って貰えなかったから”と口を尖らせてそっぽを向いた。そういう所藍子さんとそっくりだ。

次のお茶を奢ることを伝えてから、彼女が見た方を見る。
長谷寺の展望台と聞いてどういうことかと思ったが、

なるほど。

長谷寺の階段を上り切った、お堂の向こうがせり出しており、鎌倉の町並みと由比ヶ浜が目前に迫る。

遠くには三浦半島もぼんやりと見渡せて、

水平線がキラキラと光り輝いていた。



綺麗な景色、

美味しい精進まんじゅう、

冷たいが煮え切った頭には心地いい風。

それから…



「お寺、いませんでしたね」

「…。何だか、範囲を広げても…お寺は違う気がしますね」

「亡くなったら“普通”お寺と考えるのは、人間のエゴなんでしょうかね」



小舞千さんが少し疲れた表情でも、真剣に考えているのが良く分かる。自分が今日中にと言ったのできっと一緒に頑張ってくれるつもりなのだろう。

真剣な瞳がスマホの地図画面をあちこち見ては、スワップするたびに瞳の光が万華鏡のように入れ替わる。

左手の精進まんじゅうを時折思い出したかのように食べるが、量の多い自分の方がもうまんじゅうを食べ終わって、大吉団子とかいう、小舞千さんが6本も買ってきた団子の3本目を食べ終わるところだ。

誰かのためにと頑張りすぎてしまうのだろう。


「そうなると…。ねえ、佐竹さん。もし自分が彼の兄弟の立場なら…一体亡くなった後どこにいると思いますか?」

「自分、ですか…。良く分かりませんが、一般的には天国とか呼ばれる場所なのだと思っていましたが…」


自分・・・と考えて困り果てた。


歴史が疎いので彼らの時代背景を踏まえての考察は、自分には難しい。しかも自分は、家族間が今までが今までだから…。

…自分ならさっさとあの世に行く。



ゲーム持って。



ゲームが持っていけないなら、
自分と同じぐらいのゲーマーに憑りついて
最新をやり続けたいぐらいだ。



「佐竹さんは、とりあえずゲームがあればいいって感じですかね?」

「え?!何故それを・・・?!」



じっと小舞千さんが自分の顔を見て頬杖をつくものだから、その視線にドギマギしながら

“ああ、顔に書いてあるってことか・・・”

と、合点がいき、顔を手で隠した。それに小舞千さんが笑う。


「やっぱり・・・そのぉ~。人生の楽しみでもあるので、こればかりは死んでも変わらないと言いますか…多分。死んでゲーム機を天国に持ってけないなら、ゲーマーに憑りつきますね」

「と、取り憑いてまで…。ゲームって、そんなに面白いんですか?」

「小舞千さん・・・もしかして一度もプレイしたことないんですか?…いけません!!あれを知らずに人生を終えるなど、あってはなりません!!
今度自分のおすすめのゲーム機とソフトお貸ししますので・・・」


ん?この流れは・・・

もしかしたら女性とゲームで遊ぶという、

ゲーマーからしたら夢のようなイベントが起こるフラグでは?

ここであと一歩、勇気を出せばそんな未来のイベントが発生するのでは・・・?!


「そっかぁ…。そんなに面白いんだ・・・。私は何だろう?多分、おじいちゃん達や神様、草花と話すのも楽しいから…、最後に一緒にいたいって思うのかな…?迎えに来てくれるんだろうけど、上に行けるかな・・・?」

「・・・」


妙な間を開けるからあちらの流れになってしまったではないか。
自分への失望がチリのように積もっていく。
だが、小舞千さんが ふふ っと笑う。


「どうせなら、今大切な人と一緒に行くために、相手を待ってたい気もするけど・・・ね!」

「今・・・大切な人と・・・?」



待ってたい・・・?


誰かと一緒に行くのにこの地に残って、待つ。

ふと過るのは、益興さんや藍子さん。

狐少女や烏天狗、子龍。

それから・・・


小舞千さんの色々な表情や仕草が思い起こされる。

まだ出会って1月も経っていないのに・・・。

たったの2週間でなぜ“大切”と言われて彼らが

出て来るのか?


だが、心の奥底で彼らと小舞千さんの色々なシーン

がランダムに出てきて、


「死」


と聞いただけで、胸がはち切れそうになる。

更に言うならば、涙さえ出てきそうになる。



この感情はもはや好きだとか、大切に思っているとか、
そんな生易しいものではなく・・・

“愛”という言葉しか見当たらない。

家族より、家族と思ってしまう…。


この感情は何なのだろうか?

前世でも深いつながりがあったからだろうか?


通常一般ので言う“恋愛”では説明ができない。



「あ、その・・・大切な人って言うのは、例えばって話で・・・!私がどうこうとかじゃなく・・・!!」



待てよ。



だとしたら、彼らは?

少年の家族たちはどうだろうか?



彼らの家族の絆は相当のものだった。

しかし、もし待つとしてももう家は無いはずだ。

だったらどこで待つのだろうか?

特に、鎌倉入りした他の兄弟たちは・・・


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ご興味頂きましてありがとうございます。書き始めたきっかけは、自分のように海の底、深海のような場所で一筋の光も見えない方のために何かしたいと、一房の藁になりたいと書き始めたのがきっかけでした。これからもそんな一筋の光、一房の藁であり続けたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。