マガジンのカバー画像

小説

9
行く当てのない個人的な書き物です。
運営しているクリエイター

記事一覧

「緘黙――今日もどこかで……」

「緘黙――今日もどこかで……」  言うべき言葉はすべて頭の中にある。なんだったらそれを教…

さかな
4か月前
9

「いつも 痛みの中を 生きている」

「いつも 痛みの中を 生きている」  *  湯の沸騰した鍋の火を止めて、鍋に卵を家族分入…

さかな
9か月前
4

「冬の駅の記憶」

「冬の駅の記憶」  それは少し昔、まだK線「某大前F駅」がただの「F駅」という名前で、駅…

さかな
3年前
1

誰もいないポートレート 6

 *  先生が死んでからしばらくして、僕は独りで旅行に出た。彼女には、ただ旅行に出ること…

さかな
2年前
1

誰もいないポートレート 5

 幕間 「アミ」  一葉の写真がある。少年がカメラを両手に抱えて、空を見上げている。私た…

さかな
2年前
1

誰もいないポートレート 4

4 誰もいないポートレート  最後にもう一枚。  雪原の写真だ。地平線まで広がる雪原で、…

さかな
2年前

誰もいないポートレート 3

3 それは、悪くない物語  クリーム色のソファ席に並んで座っている女が二人、カメラに向かって笑顔を向けている。歯を見せて笑うような面白おかしい笑顔というわけではなくて、静かに表情の筋肉を緩めているというくらいのものだから、それが笑顔だというのは親しい人間か注意深い人間にしかわからないだろうけれど、でもそいつは間違いなく笑顔なのだ。  場所は、喫茶店かなにかだろう。女たちの前には飲み終わったカップと食べ終わった皿が、店員に見つかる前のモラトリアムの中でまどろんでいる。ライトウ

「誰もいないポートレート」 2

2 いま、あなた、泣いていますよ  もう一枚。これは実際に撮った写真だ。でも誰にも公表は…

さかな
2年前

「誰もいないポートレート」1

「誰もいないポートレート」 1 僕はシャッターが押せない  一葉の写真がある。    男…

さかな
2年前
1