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小説

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行く当てのない個人的な書き物です。
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記事一覧

「言葉を、奪われている」

「言葉を、奪われている」  * 「おひさしぶりです。私の声、聞こえますか?」  僕はその…

さかな
2か月前
13

「緘黙――今日もどこかで……」

「緘黙――今日もどこかで……」  言うべき言葉はすべて頭の中にある。なんだったらそれを教…

さかな
8か月前
9

「いつも 痛みの中を 生きている」

「いつも 痛みの中を 生きている」  *  湯の沸騰した鍋の火を止めて、鍋に卵を家族分入…

さかな
1年前
4

「冬の駅の記憶」

「冬の駅の記憶」  それは少し昔、まだK線「某大前F駅」がただの「F駅」という名前で、駅…

さかな
3年前
1

誰もいないポートレート 6

 *  先生が死んでからしばらくして、僕は独りで旅行に出た。彼女には、ただ旅行に出ること…

さかな
2年前
1

誰もいないポートレート 5

 幕間 「アミ」  一葉の写真がある。少年がカメラを両手に抱えて、空を見上げている。私た…

さかな
2年前
1

誰もいないポートレート 4

4 誰もいないポートレート  最後にもう一枚。  雪原の写真だ。地平線まで広がる雪原で、あるものと言えば、葉をすべて落とし、立ち枯れた、細い木々が点々と写っているだけだ。雪は枝に積もり、朽ちたその木が遠目になんの木であるのか、誰にもわかりはしないだろう。日はなく、画面は薄い膜を通して見るような闇に覆われている。時は薄明のようにも見えるけれど、空は濁った薄灰色で、暁の微かな残光も見えはしない。だからきっと、そこはただたんに暗いだけなのだ。  あるいは、この風景の空気の中には、

誰もいないポートレート 3

3 それは、悪くない物語  クリーム色のソファ席に並んで座っている女が二人、カメラに向か…

さかな
2年前

「誰もいないポートレート」 2

2 いま、あなた、泣いていますよ  もう一枚。これは実際に撮った写真だ。でも誰にも公表は…

さかな
2年前

「誰もいないポートレート」1

「誰もいないポートレート」  1 僕はシャッターが押せない  一葉の写真がある。    男…

さかな
2年前
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