がんばれよ、パパ。
◇
親友に子どもが産まれた。正確に言えば、産んだのは奥さんのほうで、親友は旦那さんのほうだ。昨夜10時ごろ、僕のスマホの着信音が鳴った。
『あー、産まれたわ、おとこ。帝王切開だったけど、嫁も無事』
「え、まじ、おめでとう。よかったやん、奥さんも無事でよかった」
『いや、よかったわ。まじで、いやあ…』
親友は泣いた。というより、泣き崩れていた。
彼とは、中学1年生、つまりは12歳のころからの付き合いになるが、泣いたのを初めて見た、というか聞いた。つられて、僕もうるっときてしまった。
「いやあ、よかったよ。まじで…よかったな」
◇
3年前まで、親友とはよく銭湯に行った。地元にある銭湯は夜10時を過ぎれば人もまばらで、露天風呂は貸し切り状態だった。
そこで、本当にしょうもない話をたくさんした。仕事の話、お互いの彼女の愚痴、女性の口説き方、ギャンブルの話、好きなサッカーチームの話。そして、たまに未来の話もした。
親友が僕に言った。
『お互い子どもが産まれたらさ、同じサッカーチームに入れるべ』
「それやばい、どうせ息子たちも大会で1回戦負けするしょ」
『お前の息子のことだから号泣するんだべ』
「うわ、それめっちゃ想像つくわ、やめろや。中3のときのおれでしょ?きもいわ~」
『てか、子ども産まれたら名付け親になるわ』
「え?じゃあおれも名付け親になるわ」
『息子だったら"かつのぶ"にするべ』
「中学の時の顧問の名前はやめろ。それはぜったいにやだ~」
そんな話を露天風呂でした。よくもまあ、のぼせずあんなにくだらない会話をしていたと思う。2年前、親友は結婚を機に札幌を離れた。それ以来、一緒に銭湯には行けていない。
◇
僕は親友に言った。
「あのさ、銭湯でした約束覚えてる?」
『約束?なんかしたっけ?』
「ほら、子どもの名付け親になる話」
『うわ、したなそれ、え、考えてたの?』
「おう、もちろんよ、"かつのぶ"でいこうぜ」
先ほどまで泣いていた親友が電話越しで笑うのが伝わってくる。
『やめろや、それはぜったいやだ、やめてほんと、てかもう考えたわ』
「ま~そうだよね、え、ちなみに何?」
『え、教えるわけないしょ』
「え、ひくわ~、まあいいや、いつか抱っこさせてや」
『うい~、じゃあ切るね、おそくに悪かった』
「いや、ぜんぜん。またな、ほんと、おめでとう」
ふたりで話したのは久しぶりだった。だけど、あの頃の露天風呂のテンションとなんら変わらない電話だった。電話を切ったあと、僕は彼にLINEを送った。
「がんばれよ、パパ」
すぐに既読がつき、親友から返事がきた。
『おう』
ぶっきらぼうな返事ではあったけど、その言葉に父親の覚悟を感じた。
本当におめでとう。
■あとがき
いつかまた、銭湯に行こうな。かつのぶによろしく。
そして、お前と親友になれて、本当に嬉しく思う。
これからもよろしくね。
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