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深煎り入学式 #毎週ショートショートnote

窓の外には満開の桜。その光景に目を細めた後マスターはコーヒーを差し出した。
「どうぞ。深煎りです」
「ありがとう」そう言うと老人は啜る。
「あぁ、美味しい」
マスターが破顔する。それはこの店自慢の一杯だ。
「4月になると学生がこぞって来るんですよ。ほら、すぐ近くの大学の新入生が」
「ほお。さぞ盛況なことだろう」
しかし、マスターは首を振る。
「若者には深煎りはウケが悪いようで。皆、SNSに投稿する写真だけ撮って、それっきりです」
「確かにこの苦味は歳を食ってからの方が味わい深いかもしれんな」
「若者には若者の。大人には大人の楽しみがありますからね」
老人は大事そうにコーヒーを飲み干す。そして老人は立ち上がる。
「さて、行くか」
「何かご予定でも?」
「ああ、これから私の入学式なんだ」
そう言って老人はにかりと笑う。
苦味を知る大人が、学び直してはいけないことはない。
ここには4年間通うことになりそうだ。そう思いながら老人は店を後にした。

了(407文字)


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