疎通
昨年の冬、晶さんは暖かい居間のソファーで微睡んでいた。
不意に、押入れの中に閉まってあるアルバムが脳内に浮かんできた。
何故か、今すぐにでもそのアルバムを開かなければいけないような気分になり、慌ててソファーから飛び出して押し入れを漁る。
アルバムを発見し、パラパラ捲っていると、一枚の写真が妙に目を惹いた。
それは、幼い頃によく遊んでいた従姉妹と、祖父母の家の前でポーズを決めている写真であった。
確か祖父母の長寿祝いの為に親戚一同集まった時に撮った写真である。
今は更に古くなっているであろう祖父母の家を懐かしく感じ、もう長い事行ってないなーと思いながら写真を眺めていると、足元から這い上がるような悪寒が全身に広がっていくような感覚に襲われた。
何だかこれから恐ろしい何かが起こるような気がする。
「これはきっと従姉妹に何かあったに違いない!」
と慌てて従姉妹に連絡を入れた。
「どうしたの?私は元気だよ」
電話口の従姉妹は元気そうに話していた。
──なんだ、思い過ごしだったのか
と安心するも、妙に気分が晴れない。
さっきまでソファーで微睡んでいた穏やかな時間が嘘のように、居ても立っても居られない様な、焚きつけられるような焦りと不安を晶さんは感じていた。
晶さんはもう一度だけ、従姉妹に電話をする事にした。
写真を手に持ち、電話を耳に当てて待つ。
すぐに電話は繋がった。
「あ、何度もごめんね。何だか虫の知らせみたいなのがあってさ。何か変わったことない?」
返事はない。
電波不良かなと思いつつ、何度か声をかけるも、何も聞こえない。
不意に
【ばきゅきゅ】
と、耳を劈くような爆音が電話から流れた。
驚いて電話から耳を離す。
機械音と、何かが壊れた音が混じったような、嫌な音だった。
ふと手に持っていた写真を見ると、ハサミで切られたかのように細かくバラバラになっていた。
──え?なんで?
と混乱して固まっていると
「もしもし、もしもし」
と電話口から声がする。
ハッと我にかえり、電話に耳を当てると、電話口の相手は従姉妹ではなく祖母だった。
確かに従兄弟へ電話をかけたはずなのに。
「久々に電話してくれて、ありがとうねぇ。」
電話口の祖母は、昔と変わらず優しい口調で色々と話をしてくれた。
「家も古くなっちゃって、近々取り壊すことになったんだよ。寂しいけどねぇ」
晶さんは来週休みを取り、祖父母宅が取り壊される前に遊びに行くことを祖母と約束し、電話を切った。
いつの間にかあの妙な不安と焦燥感は綺麗さっぱり消え去っていたという。
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