眠り姫1

眠り姫の考察 その1

わたしは布団が好きだ。
おふとん。特に冬場の羽毛布団。
しもやけ持ちの万年冷え性なので、湯たんぽを仕込んでおくと更に良い。
ぬくぬくは幸せだ。

ぶわあっと羽毛布団を持ち上げて、素早く体を定位置につける。
わたしと一緒に寝転んでいる空気をふううっと押し出しながら、彼は静かにわたしと密着する。
この瞬間。この瞬間なんですよ、とわたしの口角はニヤリと持ち上がる。


布団は、体を休めるために考え出された人類の叡智の結晶だ。
いかにふかふかで体に負担なく、且つ眠りやすいように体を温めるか、もしくは夏場なら涼しく感じさせるか。
今わたしの体を温めている長方形の中に、過去一体どんな知恵とアイデアと試行錯誤があったのかと思うと、尊敬の念を禁じ得ない。

小さい頃は布団から足を出すのが怖かった。
よくある怖い話の見過ぎだ。布団から出ている足をさらっていくおばけがいるのだと信じていた。
足を冷やすとよくないよ、という教訓は怪奇なものとなって子供たちの妄想世界に住処をつくる。
いつしかそんな妄想も息をひそめ、わたしたちは布団から足を出し、大人になっていく。

夏でもお腹だけは布団をかける派だ。あまりにも暑いときはタオルケット。
単にお腹を冷やすとよくない、というのもあるけれど、自分の身一つで寝転がっているとなんだか心許ない。
布一枚かかっているだけで守られているような気分になる。この安心感でよく眠れるようになるのだろう。
おふとんはわたしのお腹を守る衛兵だ。なんとやわらかな兵であることか。


ううん、そろそろ起き上がらなきゃいけない。
窓の外は朝の世界。布団の外は冷えたままだ。まだ寝ていなよと兵がささやく。
とりあえず暖房をつけよう。リモコンを探る腕が冷える。ツノを触られたカタツムリみたいに、しゅるると布団の中に引きこもる。
顔の半分までフトンツムリになったまま、上空でエアコンがゴオオと唸るのを聞く。毎朝酷使しやがって、とか思っているのかな。いい加減フィルター掃除しなきゃな。
ああ、今日も寒そうだなあ。

一瞬まばたきをした、つもりが、時計の針は12時を指していた。

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