【猫科狸】【千稀】
私の故郷には多くの人が知らない不可解な現象、怪異が多々存在しています。 それらは昔からの風習やしきたりで守られていたり、人目につかない場所でひっそりとしていたり。 この話を読んだうえでどう感じ、どう思うのかは皆様の自由です。 本当にあった、などといくら言ったところで判断するのは読んだ皆様であり、私が押し付けるものではありません。 私と弟、沖縄に住む二人がこだわりをもって集めた、そんな【あらびはなし】を是非知ってやってください。 ※沖縄独特の風習や方言、言い回しなど、通常の言葉使いとは違った部分がありますが、ご了承下さい。
奇譚、怪談
前書き※特定を避けるため人物名など細かな部分を一部改変しています。怪異の内容はそのまま記載していることにご留意ください。 ※沖縄独特の風習や方言、言い回しなど、通常の言葉使いとは違った部分がありますが、ご了承下さい。 このままではクソみたいな人生で終わる。 そう考え始めたのは社会人になって三年目の夏だった。 週末には友人と居酒屋で仕事の愚痴を言い、文句をいいながらもまた仕事に行く。やりがいなどがある訳ではない。かといって辞めるほどでもないし、働いていて楽しいこともある
あらびはなし② ・ノリコさん 女性 最近実家で集まることがあって、久しぶりに家族みんなでテーブルを囲んでいたんです。父と母と私と弟の四人で。 お酒なんか飲みながら、ワイワイ思い出話をして楽しんでいました。 酔いも回ってきた頃に 「██ちゃんって覚えてる?」 って話になって。 皆その名前に心当たりはなくて 「友達?」 なんて聞いていたんですけれど、どうもしっくりこないんですね。 いや、あれ?友達だっけ?親戚じゃなかったけ?近所の子じゃなかったけ?って感
ここまで紹介した話は、ほんの一部に過ぎない。 とりあえず沖縄では今も独特な風習やしきたりが残っており、それに関連する怪異も根付いているのだという事を理解して頂けたと思う。 そこを理解して頂ければ、日本全国どこにいたとしても、沖縄、古くは琉球に伝わる怪の一端に触れることができるのだ。 あらびはなし① ・ヒロシさん 男性 その公園は高台にあり、近くには学校がある。別に古くからある公園という訳ではない。昔はただの空き地であったと聞いている。区画整理やら開発やらで、そ
たっくぁいむっくぁい ・主婦 安里早希さん 女性 大学生時代に付き合い始めた夫と結婚して10年目になる安里さんは、中古の一軒家を購入した。 ローンの支払いなど今後の不安もあったが、二人とも仕事が安定してきたし、夫はとても優しく、共働きで働く二人の稼ぎを合わせれば生活に大きな支障が出るわけでもない。 子供ができる前に、生活の拠点を安定させたいと二人で相談して購入に至ったのだ。 家に住み始めてから数カ月ほど経った頃、妙なことが起こるようになった。 家に一人しかいな
いーみりしぇーみり ・あんまーくーとぅ【お母さんだけよ】 子供はか弱い。 夜になると、外には有象無象のマジムン (魔物)が徘徊する。 マジムンは子供と目が合うと、そのマブイを取ってしまうのだという。 無防備のまま外に出てしまい、それらに襲われると大変なことになるであろう。 どうしても子供を連れて、夜に外出しないといけないときに母は言うのだ。 「あんまーくーとぅー、あんまーくーとぅー(母さんだけよ、母さんだけよ)」 そして自身の口に人差し指をつけ、その指を
ゆくしむにー ・マブイ【魂】 沖縄が好きな人であれば、一度は聞いたことがあるかと思う。沖縄の怪談に欠かせないもの。それがマブイである。 マブイは、ふとした拍子に【落ちる】のだ。 心から嬉しくて飛び上がるほど喜んだとき、この世の終わりかと思うほど悲しく辛いとき、口から心臓が飛び出すのではないかというほど驚き慄いたときなど……。 感情が一気に揺れ動くとき、マブイは身体から落ちてしまう。 一番イメージしやすいのは交通事故であろう。 車に轢かれそうになったとき、驚きすぎて
うとぅるさむん ・ウガンジュ【拝所】 ・会社員 宮城龍斗さん 男性 もう亡くなってしまった祖父(宮城清光さん)は昔から親戚の方や地域の方々に、色々と変な相談をされる人でして。 でも、ユタ(霊媒師)ではないんです。 祖父は幽霊が見えるわけでもなければ、お祓いなんてことも出来ません。ただ、色んなことを知ってるだけなんです。知識が豊富ってだけ。 昔からの習わしや、しきたり、ウガミ(祈願)ごとの手順など、そういった知識がすごかったんですね。 隣に住むおじさんからヤックァ
いや、冗談とかじゃねえんだ ほんっっとに俺はまんじゅうが怖いんだ! えっ?違う違う! あのまんじゅうだよ! あれが怖いんだ! そんなに笑うなよ!本当なんだから おれの地元ではまんじゅうをみたらすぐに逃げろって言われるくらい怖がられてるぜ 逆におめえらは怖くないってのか? あんな化け物みてえなものをよくもまぁ怖れずに… え? あんなうまいもんねえって? お、おまえらあれを食べたことあんのか!! う、嘘だろ…… ここのみんな食べたことあるのか!? まんじゅうを口に
何か、こわいものってありますか。 大概の人はそんなことを聞かれても、と困った顔をします。 そして考えを巡らし話を始めるのです。 居酒屋で友人と呑んでいて、こんな話を聞かされました。 「○○大学の近くにあるビルにはお化けがでる」 彼は心底嬉しそうな顔をしながら言うんです。 「なあ、行くだろ?」 こわいのが好きなもので、つい、乗り気になってしまいました。 お酒の力もあったのだと思います。良い大人が、こんなにも胸躍ってしまっていたのですから。 そのビルは借り手もおらず
美紀さんの母が亡くなった時の話。 「母は嫌われ者でした。皆が母の事を嫌っていたんです。祖父も祖母も、勿論私も」 母は若い頃から酒に溺れ、借金を作ったりと父に迷惑をかける最低な人だった。美紀さんも物心ついた時には毎日のように母から暴言を浴びせられ、母との楽しい思い出など存在しなかった。 父はとても優しく、母に暴言を浴びせられて泣いている美紀さんをいつも慰めてくれていた。 酒に酔い、タバコの臭いを全身に纏わせて、怒鳴り声をあげながらドアをガンガン叩いて帰ってくる母
【自業自得】 ・自身で行った事の報いを自分の身に受けること。 実話怪談。誰かが体験した、もしくは自身で体験した奇怪で奇妙な話。 創作ではない、本当にあった話を探しては世の中へ届ける。 それが、私が生業としている怪談作家の仕事である。 毎日の様に、まだ見ぬ怪談を求めては全国を飛び回っていたのだが、近ごろはめっきり行かなくなっていた。行かないというよりは行けなくなっていた。 知人、友人と様々な繋がりを当たり、怪談を探し求めていたのだが、話は尽き果て、如何せんもう疲れてし
さっさと風呂に入ってさっぱりしてビールでも呑んだろうと思って。 ぱっぱっぱっと服を脱いで浴室に飛び込んだら 「何をそんなに焦っているのです?」 って声をかけられた。 キョロキョロしていると 「こっちです。こっち」 そこにいたのは買ったばかりのシャンプーだった。正確にはシャンプーの容器か。 とにかく早く風呂を終えてビールが呑みたかったんで 「あぁなんだ」 と気のない返事をして、シャンプーのポンプに手を伸ばしたら 「これ、痛いんです。優しくしてもらってよいですか。キスするみたいに
昨年の冬、晶さんは暖かい居間のソファーで微睡んでいた。 不意に、押入れの中に閉まってあるアルバムが脳内に浮かんできた。 何故か、今すぐにでもそのアルバムを開かなければいけないような気分になり、慌ててソファーから飛び出して押し入れを漁る。 アルバムを発見し、パラパラ捲っていると、一枚の写真が妙に目を惹いた。 それは、幼い頃によく遊んでいた従姉妹と、祖父母の家の前でポーズを決めている写真であった。 確か祖父母の長寿祝いの為に親戚一同集まった時に撮った写真である。 今は更に古くな
所謂怪談や体験話を本で読んだり人から聞いたりして楽しんでいても、どこか心の奥底では自身と関係ない、と思っている方は意外と多いものです。 この人は曰くつきの場所へ行ったのだから、この人は霊感がある人だから、この人は運が悪かったから。 そもそも本当に体験したのか、創作話ではないのか、ちょっとした出来事をただ大袈裟にしただけではないのか。 勿論、そのような話もあると思います。否定はしません。むしろ私自身聞いていてもこんな事、本当にあったのか? と疑問に思うことだってあります。 正直
「今思えば気の所為だったのかもしれないんですけど」 Cさんの父が自ら命を絶ったのは年の暮れだった。 元々精神的な病を持っており、病弱な母の介護でそれが悪化し衝動的にやってしまったのだろう、と残された家族は警察からの説明を受けたのだという。寂しがり屋だったが優しい父であった。 Cさんは悲しみに暮れる間もなく、母の介護問題に直面することになった。 母の妹である叔母も手伝ってくれたが、今の生活を続けながら父の代わりをすることは難しい。 Cさんは施設へ母を入所させる事を考えていた。