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文楽、何それ美味しいの?いやめっちゃ美味しそうなんだけど!――三浦しをん『仏果を得ず』

「ぶんらく」なのか「ぶんがく」なのか。

そこから知らない。
恥ずかしながら、日本の人形劇、というくらいの認識しかない。


まったくもって、未知の世界。

興味がないことはないけれど。
難しそうだし、昔の言葉で何言ってるかわからなさそうだし、
学校行事で連れて来られて眠っちゃう、
敷居が高い、そんなイメージ。


茶道も歌舞伎もそうだけど、日本文化ってどうしてこうもハードル高く感じてしまうんだろうね。


そんな日本文化と現代っ子の間にそびえ立つ壁をドカンと壊してくれるのが、三浦しをんさんの『仏果を得ず』。



代々のお家に生まれたわけではなく、学生時代に先生から要注意人物扱いされていた男の子が、文楽の世界にほれ込んで芸の道をまい進する青春小説。

ちなみに、文楽は「ぶんらく」と読むらしい。

当然、文楽の世界で話が展開するわけだけれども、予備知識がなくてもすっと物語に入り込める。


三浦しをんさんの作品は、全くのビギナーをファンにまで引きずり込んでしまう魅力がある。間口は広いけど、入ったらそこには沼が広がっている。

駅伝を舞台にした小説『風が強く吹いている』も好き。小説を読んでから、正月の駅伝も楽しめるようになった。(子どもの頃は、親が見ているのが嫌で。せっかくのお正月なのに2日間どこにも遊びに行けない、敵のような存在だった)


この魅力の正体は何なのだろう。
言葉の使い方とか、初心者にもわかりやすく説明を交えてくれるとか、ストーリーがテンポよく進むとか、そういうのはもちろんなのだけれど。

あぁ、そうか。
「文楽の世界に生きる人」じゃなくて、「人間」を描いているからなんだろうな。

文楽はあくまで舞台であって、いやもちろん魅力はしっかり描かれているのだけれど、その文楽の世界に身を置く「人々」が、あーだこーだして、泣いて笑って真剣勝負をする。舞台が何だろうと、人間模様は同じ。だから、話に共感できるし、感動する。

そうしていくうちに、登場人物のことが好きになって、登場人物が好きな文楽という世界も好きになっていっちゃう。主人公の悩みと文楽の演目の内容が絶妙に絡み合って物語が進んでいくのも面白い。

 

文楽がこんなに熱いものだなんて!

ドキュメンタリーというジャンルが存在するように、舞台裏とか、携わる人の想いを知ると、一気に世界が広がって、俄然、面白くなる。

でも、表が好きだから裏側が見たくなるのであって、いきなり裏側から入る、なんていう気にはなれない。まずは表から。でもその表へのハードルが高い。

そういう、未知の世界を覗くのに小説ほどぴったりなものはない。ストーリーを純粋に楽しんでいるうちに、表も裏も覗けてしまうのだもの。そんで、三浦しをんさんほどの適任はいない!


ということで、今ものすごく文楽を見に行きたくて仕方がない。調べたら、行けそうなのは早くても4月…まだまだ先だなー。

でも、こうして楽しみが増えていくと、頑張ろうって思えるのだ。


ちなみに私は兎一郎が好き。たいてい、主役の隣にいる人を好きになってしまうんだなぁ。


ではまた~。


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