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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(6)

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 階段を上りきった先は、数組のテーブルとイスのセットが置かれたテラスになっていた。

一番奥のテーブルで四人グループがバーベキューを楽しんでおり、お店の入口はその席のすぐ近くにある。

 店内に入ると、中は笑い声に満ちていた。見るからに山に行き慣れた五十代くらいの男女のグループが、ビールを飲みながら楽しそうに話している。

 登和子はびっくりした。

 
 山登りでビール!?


 しかし考えてみればアリかもしれない。ロープウェイで下山するのなら、アルコールを飲もうがおなかいっぱい食べようが大きな問題はなさそうだ。自分の足で下山するとしても、歩き慣れた道であれば、少しくらい飲酒しても大丈夫なものなのかもしれない。

 注文カウンターの前に着く。

 メニュー表を見ると、確かにビールの表記があった。

――私は今日、ロープウェイで一気に下山する。つまりこのくさくさした気分を晴らすためにビールを飲んだって、なんの問題もないはずだ。


「おまたせしました~」

 登和子が座った窓際のカウンター席に、店員が注文した品を運んできてくれる。お礼を言い、やってきたものといそいそと向き合う。

 チーズケーキとコーヒー。

 迷い抜いたが、まだ“山の上でビール”は自分には早いのではないかという結論に達した。飲酒はもう少し登山の回数を重ねてからのお楽しみにするとして、まずは“山の上でケーキ”、“山の上でコーヒー”デビューを果たすことにした。

 チーズケーキは表面がきつね色に焼き上げられたベイクドチーズケーキだ。そばに丸く絞り出されたクリームが添えられており、ミントの小さな葉がちょこんと載っている。

 ケーキにフォークを入れ、クリームを少し載せて口に運ぶ。

「ああ、おいしい……」

 濃厚な甘さとコクが口のなかいっぱいに広がる。甘みを抑えたクリームがチーズケーキの味を引き立て、よりおいしく感じる。

 一口目を堪能してから、コーヒーを飲む。ケーキが甘いのでブラックのままだ。口の中が苦みでさっぱりして、また甘さがほしくなる。

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