「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(終)
しばらく食べ進め、ふと顔を上げた。南に面した窓の外には、神戸の街並みと海、遠くの山々が広がっている。
山の頂上でありながら、空調の効いた室内でおいしいケーキとコーヒーに舌鼓を打ち、素晴らしい景色を眺めている。
この状況は、至福としか言いようがない。
胸に広がっていた暗いもやもやは気がつけばすっかり取れていた。
登和子の頭に、終わりよければすべてよし、という言葉が浮かんだ。
『それはダムやなくて堰堤ちゃうかな』
帰宅後、仲間と山に登っていた次郞と、お互い行った山についてLINEでやりとりしていたときのことだ。その流れで登山の序盤で道を通せんぼしていたダム(仮)について送ったところ、そのような返事があった。
「せきづつみ……?」
読めない。テキストをコピーしてネットで調べる。
“えんてい”と読むらしい。土砂災害を防ぐ目的で作られているとのことだ。
さらにLINEでやりとりを続けていると、衝撃の事実が明らかになった。
登和子が『摩耶山の頂上の掬星台から見た景色がきれいやった』と送ったところ、『言いづらいのですが』という前置きとともに、次の文章が送られてきた。
『摩耶山の頂上は掬星台やなくて、登山道からちょっと外れたところにあります』
「なっ!」
絶句し、その気持ちを表すスタンプを送って、ベッドに倒れ伏す。
――色々な角度から、なんて私の心に爪痕を残す山だ、摩耶山は!
そのまま登和子はふて寝した。
また近いうちに摩耶山に登らねばならないと、薄れる意識の中リベンジを決意した。
(6 摩耶山-終)
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