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「関西女子のよちよち山登り 2.国見山~交野山」(4)

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 腹痛が起きそうなときに薬を飲み、そのまま穏便に済む確率は大体七〇%ほど。早く飲めば早く飲むほど勝率は上がるはずなのだが、今日の登和子のおなかは確率をはねのけてしまった。

「ああ、やばい、いててて」

 国見山を出発して二十分。交野山への道を歩きながら、登和子はおなかの調子ばかり気にしていた。定期的に痛みのビッグウェーブが押し寄せる。そのたびに、登和子の体はトイレがなければまずい状態に近づいていった。

 地図を確認してみたが、トイレマークはどこにも書かれていない。

 国見山で腹痛の予兆があった時点で、ふもとに戻るべきだった。そうすれば山中よりトイレにたどり着ける可能性が高かったのではないか。

 歩きながら、ついちらちらと道の脇をチェックしてしまう。茂みがあり、隠れられそうな――『できそうな』場所がないかと目をさまよわせてしまう。

「あかんあかん!地元の人がたくさん来る山で、そんな……」

 小声で自分を叱りつつも、腹痛が起きるたびにやはり良い具合の茂みを探してしまう。

 のろのろ歩いているうちに、交野市と枚方市の市境を越えた。そのすぐ先にある暗いトンネルを、出口の真っ白な光を目指して進む。

 外に出ると、左手に湖のような水面が見えた。
 地図を確認すると、白旗池という池のようだ。

 登和子は「あ!」と小さく叫んだ。

 池のすぐ先に『交野いきものふれあいの里』という名前が書かれている。
 
 もしそこが野外活動センターのようなものだとしたら、トイレがあるのではないか。

 救世主だ。登和子はおなかを刺激しないように、慎重に先に進んだ。もし利用者以外の使用が禁じられていても、緊急事態だからとお願いしてみよう。

「あった!」

 池のほとりからすぐ、木製のスロープと外階段がついた建物にたどり着いた。トイレの表示を探して建物沿いに進むと、一階の角に『お手洗』の張り紙を発見した。屋外から入れるタイプのトイレだった。

 貴重品をポケットに詰め込み、トイレの外のベンチにザックを置いて駆け込んだ。

 個室で事を済ませる。

 登和子はこの世のありとあらゆる存在に感謝した。

 本当に良かった。助かった。

 そう思った瞬間、トイレの電気がいきなり消えた。

 先客が出て行くときに、登和子に気づかず消灯してしまったのだろう。
 しかし今の登和子の心には感謝しかなく、怒りの感情はみじんも湧いてこなかった。

サポートいただけたら、もれなく私が(うれしすぎて浮かれて)挙動不審になります!よろしくお願い致します!