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そんな目で、こっちを見ないでください。

以前、インフルエンザにかかった時のお話です。

身体が少しだるいなぁと思いながらも
普通に過ごしていたある日のこと。
すぐに良くなるだろうと思っていたのに
みるみるうちに体調が悪化。
発熱し、どんどん熱も上がっていく。
頭をよぎったのは
「あ、これはインフルエンザかもしれない。」
もしそうならすぐに医者に行っても検査はできないし
行く程の元気もない。
ましてや他の人にうつす可能性もある。
とりあえず今は大人しく休むしかない。
そんなことを考えていた。

幸いその当時私は仕事をしていなかったので
とりあえず横になって休もうと思った。
その日は休日で、夫も家にいた。
熱が38度近く上がってきた。
ご飯なんかもちろん作る余裕はないので
夫は一人で、ご飯や私に必要そうなものを
買いに行ってくれることになった。

買いに出た夫から連絡がきた。
「あの好きなお弁当売ってるけど食べる?」
「食欲ないだろうけど一応確認」
うむ。食べたい。
そのお弁当というのはスーパーで売っているものなのだが
たまにしか入らないちょっとレアなお弁当なのだ。
お肉なので消化に悪いだろうに
熱のある私は恐ろしくも二つ返事で答えた。
夫も断るだろうが念のため聞いたという感じだったので
帰ってきてから「驚いた」と言われた。

私はその時38度超えていたくせに
食欲があった。
しかし、普通ならもっと消化の良さそうな
食べやすいものを食べるのだろう。
なんてワイルドな自分。
少しおかしくなっていたのだろうか(笑)
けど、食べたんだなこれが。ふふふ。
夫も同じものにして、全く一緒のお弁当を食べた。

その後さらに熱は上がっていた。
39度台に突入。
さすがにしんどくなってきた。
しかし不思議なことにお弁当を平らげても
気持ち悪さはなく、戻したりもなかった。
けれど、熱だけは容赦なく上がる。
とにかく少し動くのもきついので、寝返りも打てない。
こんな状態まできてしまったので
とうとう解熱剤を投入することにした。

マスクをしながら横になっている私は息が上がっており
苦しくて自分でも「フーフー」と言っているのがわかった。
布団で寝ている私の視線の先には
座っている夫の背中があった。

目を閉じるが、短時間で眠ったり目が覚めたりを繰り返す。
時折目を開けて、目を閉じる。
やっぱり熱はしんどいなぁとぼんやり思っていた。
そしてまた目を開けた。

夫がこっちを見ていた。

悲しそうな切なそうな顔でじっと。
捨てられた子犬のような、なんとも言えない表情。
そしてまた、夫の顔色が良くないようにも見える。
なぜか夫、めちゃめちゃ具合悪そうなんですけど。
え?どうした夫さんよ。
なんですかその切ない顔は。
なぜ夫のあなたの方が具合が悪そうなんですか。

私「どうしたの?具合悪いの?」
この体調がすごく悪い中でも、さすがに心配した。
夫がそれ位の表情をしていたからだ。
もしかしたら実は一緒にインフルエンザを罹っていて
一緒のタイミングで具合が悪くなってしまったのだろうか。
だとしたらまずい。
今私は夫の面倒をみることはできない。
だって私39度超えてますからぁぁぁぁぁ…

夫「大丈夫だよ。体調悪くないから。」
あら?そうなの?じゃあなんでそんな顔してるの?
しかしこの質問はしなかった。
とりあえず夫の体調に問題がないことがわかりホッとした私は
そのまま目を閉じた。

しかしその後も熱があまり下がらず、38度後半をずっと継続中で
なかなか眠ることができない。
また目を開けたり閉じたりしながら
夫の背中を見ていた。
そしてそれに応えるかのように
さっき見た夫のあのなんとも言えない表情が
無言でこちらをまた何度も見ていた。
「いやいや、だからなんなんですかその顔は…」
と、心の中で私は夫に何度も質問していた。

次の日。
熱は37度台まで下がり、私はだいぶ楽になっていた。
そういえば…

私「昨日のあのなんとも言えない表情どうしたの?」
夫「だって、そっちがすごく具合悪そうだったから…」
私「ん?」

詳しく話を聞くとこういうことだった。
基本的にいつも元気で具合が悪いことがない私。
逆に夫は体調を崩しやすいしお腹もすごく弱くて
いつもどこか具合が悪そうなのが夫の基本なのだ。
そんな、いつも元気な私のあまりに辛そうな姿を見て
夫「正直、見ている自分の方が具合が悪かった。」
ということだった。
なんじゃそりゃ(笑)

確かに、いつも元気な人が体調を崩したり怪我をしたりすると
意外と動揺するものかもしれない。
「いつもと違う」ことに、人間は敏感だ。
特に夫の中では、私が元気でいることが精神安定剤のようで
元気がなくしんどそうな姿を見て
自分自身の方がもっと具合が悪くなった、という主張だったらしい。
それがあのなんとも言えない切なく悲しい顔だったのか…
なるほどね。

繊細な夫は、私が少し我をしても
自分が怪我をしたかのような悲しい顔をする。
繊細な人は優しいですね。
でもその逆を考えると、そういう人は
自分が相手の立場になり過ぎるところもあるので
こちらも注意しないといけませんね。

その後すっかり元気になった私の姿を見て
満足そうな顔をしていた夫。
すみませんね心配をおかけしまして。

これからは十分気をつけまーす。
あんな切ない顔はもう
見たくないですからね。


ではまた。

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