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手作りカルタ【#シロクマ文芸部 】

咳をしても金魚。

ばしっ!

テーブルを叩く音が病室中に響き渡る。
その瞬間、律の残念そうな顔が私の目に映る。

「はい、取った!それにしても『咳を…』って変だよね?」
「うん。でも好き。咳だから、仲間だもん」
カードを見ながら律は少し寂しそうに言う。

「このカード、ママの手作りなの?」
「うん。ママがこれ律に渡してって」

ママ手作りのこの不思議なカードは
文字カードと絵カードの二種類に分かれており
文字の方には全て「咳をしても○○」と書いてある。
他には「咳をしてもゾウ」や「咳をしてもコアラ」もあった。
カードはそれぞれが対になっているから
カルタみたいにして遊んでね、とママは言っていた。

「でもこれ全部『咳』なんだよね。なんでだろ?」
「わかんない。あ!金魚たち元気にしてる?会いたいなぁ…」
律がまた寂しそうに言った。

弟の律は昔からこうしてたまに入院することがあった。
私も難しいことはよくわからないけど
咳がひどいと入院しなきゃいけないことがあるんだって
昔ママに教えてもらった。

でも最近こんなことがあった。
いつもは大人しい律が泣いて大暴れしたのだ。

「咳ばっかりもう嫌だ!僕こんな自分大嫌い!」

その時の律はたしかこう叫んでいた。
律は本当はずっと我慢していたんだと思う。
自分が入院するせいでママを悲しませている
だから自分のことが嫌いなんだと
前にそう言っていたことがあったから。

「じゃあ、次」
「うん。これで最後だね」

とうとう最後の一枚になった。
最後の文字カードをめくるとそこにはこう書かれてあった。

咳をしても律くん。

「え…?」

律も私も驚く。
カードの文字はまさかの「律くん」
それによく見ると最後に残った絵カードには
笑顔の男の子の絵が描かれている。

ママは律のことが大好きだ。律のことを大切に思っている。
だから苦しそうな律を見るママはいつもすごく辛そうだった。
そしてそんなママを安心させようと、律の方もいつも
無理して平気なふりをする。
律はお母さん思いの本当に優しい子なのだ。

だからこそわかる。
ママは律に、自分の事を嫌いになってほしくなかった。
自分を大切にしてほしかった。
ママはそのままの律が大好きだよって
恐らく律にそう伝えたかったんじゃないか。

咳をしても律くん。

どんな律でも、律は「律」なのだ。
私たちの大好きな「律くん」なのだ。



同点で迎えた最後の勝負は
もちろん律が勝った。

だって最後のカードを取れる人は
律しかいないのだから。


【おしまい】

***


こちらの企画に参加しています🐨


タイトル画像は以前描いた金魚のイラストです。


ではまた。

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