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氷の鎧 【#シロクマ文芸部 】

凍った星をグラスに。

それしか方法がないと思った。
凍ったお星さまをグラスに入れてぬるま湯を注ぎ、氷の部分を溶かす…
そうすれば氷の中に閉じ込められたお星さまをすぐに
助けられると思っていた。

いや、溶かさないでおくれ。この氷は僕が自分で作った鎧だから。

「氷の鎧」
この鎧はお星さまが自分の涙で作ったもののようで
何者かによって氷の中に閉じ込められたわけではなかった。
ならばなぜお星さまは、こんなに冷たくて堅いもので
自分を覆っているのだろうか…

僕は傷ついたんだ。周りから酷いことを言われて、すごく悲しかった。
もう傷つきたくない。怖いんだよ。
だから僕はこの氷の鎧で自分を守ることにした。
鎧で自分を守れば、もう絶対に傷つかずにすむからね…

私にはお星さまの気持ちがよくわかった。
それは私にも昔、同じような経験があったから…

それにしてもこの氷の鎧は、何ともいえず恐ろしく、冷たい。
今お星さまの心もこんな風になってしまっているのだろうか。

たしかにこの氷の鎧があれば、お星さまはこれからずっと
「傷つくこと」から守られるのかもしれない。
けれど、一度傷ついた心はそのままでは治らないことも
悲しいが私はよく知っている。
このままでは傷はずっと治ることなく、さらにはこの冷たい氷の鎧によって
お星さまの心はどんどん凍ってしまうだろう。
そしていつかお星さまの心は本当に
壊れてしまうかもしれない。

そうだ。
お星さまを助けるにはこれしかない。

お星さま
傷ついた心を治すいい方法があります。
それは、人とまた「触れ合う」ことです。

そんなの嘘だ。誰かと触れ合ったら、きっとまた僕は傷つく!

それは違います、お星さま。
傷つくためじゃなくて、傷を治すために触れ合うのです。

お星さまは周りから酷いことを言われ、深く傷ついた。
それはとても辛く悲しかっただろう。
今はその傷ついた心だけをもって氷の鎧の中に閉じこもっている。
でもお星さま、私はその冷たい氷の鎧を溶かしたい。そして伝えたい。
人と触れ合うことは、傷つけることも傷つくこともあるけれど
たくさんの幸せをくれることもあるんだよ、って。

私はお星さまにお願いする。

さぁ、お星さま。氷の鎧を脱ぎましょう。
私がこのグラスにぬるま湯を注ぎます。いいですね?
そしてもしこの氷の鎧が溶けたなら、ぜひ私と一緒にお茶をしましょう。
私、お星さまともっともっと、お話がしたいんです。


溶け出した氷の鎧の中からは
眩い光に包まれたお星さまが姿を現した。

そしてその輝くお星さまはこちらをちらっと見ると
少し照れたように笑っていた。


【おしまい】

***


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ではまた。


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