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僕の相棒 【#シロクマ文芸部 】

一冊の本を埋める。
でもまたすぐに僕の元へ帰ってくる。

そう。
帰ってくるには理由があるんだ。

友達のいない僕を心配したじいちゃんが
ある日僕に一冊の本をくれた。

外から見るとただの分厚い本に見えるが実際には中は真っ白で
どのページにも何も書かれていないようだった。
大好きなじいちゃんからもらったことが嬉しくて
僕は早速この本に自分の名前を書いた。
じいちゃんがなぜ僕にこの本をくれたのかはわからないが
とりあえず僕はこの本に僕の平凡な日常を書くことにした。

今日はこれをした。今日はこれを食べた。
今日は…

毎日本を開いては何か一言でもいいから書くことを続けた。
毎日書く、書く、書く。
いつしか本と僕は相棒みたいになっていた。

それから半年ほどして
じいちゃんが亡くなった。

僕の日記にはいつも大好きなじいちゃんがいた。
じいちゃんがいなくなってしまったことで
僕は日記を書く意味がわからなくなった。

僕は書くことをやめ、これまでの日記を読み返す。
けれど読むうちにどんどん辛くなってきた。
この日記にはじいちゃんとの思い出があり過ぎる。
ダメだ、苦しい。この本をどこか見えないところに…
そうだ。この本は埋めてしまおう。
誰にも見つからない場所に隠してしまおう。

そこで僕は穴を掘ってこの本を埋めた。

翌朝起きると、昨日埋めたはずの本が
僕の部屋の机の上に戻っていた。

だから今度はもっと遠くへ行って埋めた。
でもまたすぐに僕の元へ帰ってくる。
僕は困った。
もしやこの本は僕と離れたくないのだろうか…

その後何度埋めてもこの本は僕の所に帰ってきた。
どうすることもできず、結局今もこうしてここにある。
どうしたらいいものか…
僕は久しぶりに本のページをパラパラとめくる。

じいちゃんとの思い出が蘇ってくる。
じいちゃんは今もここに生きている。
そして僕の平凡で大切な日々もここに生きている。

やっぱり僕、この本を手放すことなんてできない。

最後のページにたどり着いたとき
何か字が書いてるのに気づいた。
こんなのあったかな…

それはまさしくじいちゃんの字だった。
そこにはこう書いてあった。

この本はお前の相棒だ
仲良くなるためにまずは本に名前を書くこと
ここに自分の名前を書いたなら
これからどんなことがあっても
この本は必ずお前の傍にいるだろう
                           じいちゃんより

さすがじいちゃん。
寂しがり屋の僕にはぴったりの相棒だね。

その相棒に向かって僕は話しかける。

何度も埋めて本当にごめん。
そしていつも僕の傍にいてくれてありがとう。
こんな僕だけど
どうかこれからもよろしく。


僕らは本当の「相棒」になった。


【おしまい】

***


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ではまた。


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