見出し画像

お手軽ドッペルゲンガー[500文字小説]

『十二月七日十時三十八分 ドッペル(服)』
 いやいや、(服)って何。と、日記帳アプリを眺めていた私はツッコミを入れた。これで日記のつもりなのだから恐ろしい。まだ三日坊主の方がマシだろう。同日の十八時四十二分を見ると今度は『(色)』とだけ書いてある。もはやドッペル(ゲンガー)とすら打っていない。なんだこれ、と記憶を辿る。
 あぁ、確か、たぶん。その日の朝、電車で隣り合った女の子と、服装がまったく同じだったのだ。ジーユーの赤いセーター、黒デニムのスカート、ベージュのトレンチコート、コンバースの青いスニーカー。そっくりそのまま、ぜんぶ同じだった。あの女の子のほうが身長は高かったけれど、腰を下ろして足先を見ると、同じ見た目の足が四本並んでいて、とにかく奇怪だった。
 『(色)』は色違いだ。帰りのバスで私の横に立っていた女の子も、コートと靴が色違いで同じものだった。コートが黒で、靴が赤。その方がかっこいいな、と思ったから覚えている。
 いくらよくある商品だからといって、同じ服装の人間が電車で隣に座る確率は低いのではないだろうか。そんな気がする。そう思って、うん……とりあえずこの日記書き直そう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?