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十品目ルールとの戦い

食事を作る係として、夕食には最低十品目入れることを目標にしている。

十、という数字は何も考えずに料理するとギリギリ足りない。絶妙に難しい数字だ。



キッチンに立ち、調理中の鍋に一つずつ目をやる。フライパンで焼いている塩サバには焼き目がつき始め、ぐつぐつと湧く湯の中で味噌汁用の玉ねぎとえのきが揺れる。電子レンジの中では、二分半の加熱が終わったほうれん草が味付けを待っている。今日はこの三品で終わりだ。

サバ、玉ねぎ、えのき、味噌、ほうれん草、米。
指を一本ずつ折り、食材を数える。あ、サバに乗っける予定の大根おろしがあった。それでも七品目。うーん。ちょっと足りない。

こういうときに助けになるのが乾物だ。ごま、桜エビ、塩昆布、わかめ。ジャカ、ジャカ、と鳴る小袋を指で一つずつ送る。何かを献立に突っ込めないだろうか。

乾物が入ったカゴと冷凍庫をのぞけば、大抵の場合はなんとかなる。味噌汁にわかめをひとつまみ放り込み、ほうれん草には醤油と共に、かつお節とごまをジャッと振りかける。

ごまは本当に優秀だ。おひたしでも、炒め物でも、サラダでもOK。和食か中華なら合う料理が多いし、最後にあわてて足しても大丈夫。量も、袋を斜めにしてジャっと出た分が「適量」だ。
その便利さにしょっちゅう助けられ、我が家では賞味期限を待たずに空になっていく。

最後に、冷凍庫にまとめて刻んで冷凍していたネギを思い出し、凍ったままサバにふたつまみ乗せた。十一品目。悪くない。

「いただきます」

テーブルに乗った料理を心の中で数え直し、満足感に浸る。美味しさだけを追求した料理も素晴らしいけれど、どうせなら健康にも貢献して自分の仕事の価値をもう一段階上げようじゃないか。
昨日は十、今日は十一、平均点は悪くない。


しかし、どうしても数が足りない日もある。米、唐揚げ、じゃがいもとニンジンの味噌汁。うわっ。四つしかないよ。

とりあえず、味噌汁にわかめとネギを放り込む。
あれ? 味噌汁でわかめとネギの組み合わせってアリだっけ。我が家ではあまりやらないが、あり得なくはない。これで六!

色合いを考えると唐揚げにレタスやキャベツを添えたいが、あいにく冷蔵庫の野菜は尽きかけだ。今日はもう絶対に絶対に家を出たくないので、乾物の入ったプラスチックのカゴを再び漁る。

同じわかめ・ネギの組み合わせでも、卵がふわふわの中華スープだったら春雨とゴマが散らせるのに。さすがに味噌汁に春雨とごまは、料理人としての自分が許せない。あくまで味が先。数合わせのために摩訶不思議な料理を作るのはプライドに反するのだ。

やむなく味噌汁に一味を散らす。
これで七(くっ。七味だったらこれで十三なのに)。唐揚げにはすでに醤油で下味がついているが、レモン汁をかけることにしよう。八。かなり怪しくなってきた。

もう。もう入れるものが無いよ。あまりやりたくないが、味噌汁の「味噌」を数えてしまえ。

「お吸い物」という料理があるくらいだし、味噌は味噌汁を味噌汁たらしめる立派な食材だ。だから大丈夫。味噌で九!
後はいつも飲んでいる麦茶で十!

ズルに近い十品目だが、なんとか自分を納得させるのに成功した。乾物の使い方と同じくらい、自分への言い訳が上手くなってきた。


でもそもそも、この十品目ルールってどこから来たんだっけ?
そう思いながら「食品 十品目」と検索すると、「『30品目』という数字にこだわる必要はない」「『30品目』食べるは間違いだらけ」などの不穏な記事が並んだ。あれ?

どうやら、この十品目ルールの土台である「一日三十品目食べましょう」という目標は、わたしが生まれる前に厚生労働省によって掲げられ、二十年以上前にさりげなく削除されたらしい。

「三十品目の数字を目標にするとカロリーオーバーの可能性も!」

そんな。
「健康のため」と思って、ごまや桜エビを振りかけていたのは何だったんだろうか……と思ったら、元々の三十品目ルールでも「ごく少量しか入らない食材や調味料は品目に数えない」らしかった。

じゃあ良かった(?)

十品目ルールは昔もこれからも、自分との戦いだ。




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