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「らしさ」で戦う者たちへ

1.コンバートは人を変える

2021年も佳境を迎え、そろそろ年の納め方を考える時期になりました。キワタでございます。


本日は、代表の中村さんが記事を執筆される予定だったのですが、体調不良のため、急遽私が代打で書かせて頂くことになりました。

先月の記事で「不動の一番打者になれるよう」と書いた翌月、さっそく「一番打者」から「代打」に人事異動となってしまいました。キワタでございます。

しかし、この私の記事によって、ここ2年ほど続くOWL Magazineの毎日更新は守られたのです。今日の「公開」ボタンは、まさに逆転タイムリーヒット級と呼んでも差し支えないでしょう。

オフの契約更改を楽しみにしつつ、本日の記事に入ります。


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さて、我々が日々応援しているJリーグでは、優勝争い、昇格争いが佳境を迎えておりますが、プロ野球の世界では一足早く、セ・パの両リーグで優勝チームが決定しました。

「旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌」でこのような話をするのは恐縮ですが、私が応援しているオリックス・バファローズが、とうとう念願のパ・リーグ制覇を果たしました

長らく最下位か5位が定位置だったところ、今年は開幕から絶好調。仰木監督を筆頭にイチロー選手、星野伸之選手などを擁した1996年以来、25年ぶりのリーグ優勝です。


バファローズの開幕前の下馬評は、決して高くはありませんでした。大型補強と呼べるものは、メジャーリーグから帰ってきた平野佳寿選手くらいで、新加入選手は新人が中心。各スポーツ紙の順位予想でも、Aクラス争いが精いっぱいだろうと評価されていました。


そんなチームを生まれ変わらせたのが、昨年途中から監督代行を務め、今年正式に就任した中嶋監督でした。2019年から2軍監督を務めてきた中嶋監督は、それぞれの選手の特性を見極め、持ち前のマネジメント力をもって、その選手の持ち味を最大限に発揮させ、多くの選手を輝かせたのです。


サードのレギュラーとして139試合に出場した宗選手は、去年までは外野を守っていた選手。入団当初はショートを守っていたものの、一旦は「失格」の烙印を押され、外野手に転向していました。しかし今年は、「本来の身体能力の高さを生かすため」との目的で、サードに挑戦。これが見事に的中し、入団7年目にして初めてレギュラーの座を掴みました。

不動の一番・センターとしてチームを支える福田周平選手も、去年まではセカンドを守っていました。「これまでの野球人生で、外野を守ったことがなかった。」と語る福田選手ですが、持ち味である俊足と広い守備範囲で、チームを何度も救い、今では欠かせない選手に成長しました。

難病と闘いながらセカンドのスタメンを張る安達選手は、鉄壁の守備力といぶし銀のバッティングで、長らく不動のショートとしてチームを支えてきたひとり。今年は19歳の紅林選手がショートで起用されているため、本来のポジションではないセカンドに転向しましたが、セカンドでもその守備力は健在。層の薄いオリックスのセカンドを支え、3年ぶりに100試合に出場し、33歳にして新境地を切り開きました。


幼い頃から慣れ親しんだポジションを変えることに対して、抵抗がある選手もいたことでしょう。しかし今年のオリックスを支えたのは、紛れもなく「自分の持てるものを最大限に発揮するために、思い切って新たなポジションに挑んだ」選手たちなのです。


さらに広い意味で捉えると、学校や会社、あるいは人生において、思うように結果を出すことが出来ていない人でも、思い切って環境や考え方を変えることで、自分の持ち味や特性を活かし、輝くことができるのかもしれません


そこで今月は、スポーツと私自身の経験を重ね合わせながら、「自分の持ち味や特性を活かして生きる」ことについて、考えてみたいと思います。

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(写真:10月末、パ・リーグ首位攻防戦でのひとコマ。ツエーゲン金沢サポーターの友人がロッテの応援に京セラドームに来ていたため、試合前に撮りました。)



2.「武器」を活かすパラアスリート

時期は少しさかのぼって8月、東京ではパラリンピックが開催されていました。

最初は、昼下がりの何気ないBGMのつもりで、テレビをつけていました。しかし、何気なく仕事の手が止まった時に、ふとテレビに映るパラ競泳の選手に目を向けると、なんともいろんなことを考えてしまい、目が離せなくなってしまったのです。


パラリンピックの競泳競技は、障がいの程度の重たい順に、1から14までのクラスに分けられて行われます。例えば、今回のパラリンピックで、金メダルを含む5つのメダルを獲得した鈴木孝幸選手は、両手と両足の一部が生まれつき失われており、ここでは「3」のクラスにあたります。

(動画:鈴木孝幸選手。鈴木選手は「3」のクラスですが、出場選手数の関係で、ここでは1段階軽いクラスである「4」のクラスのレースに出場しています。


当然同じクラスの選手でも、人それぞれ障がいを抱えている部分は異なります。右手がない選手、腕はあっても指がない選手など、それぞれのハンディキャップを背負って戦っているのです。

裏を返せば、それぞれの選手は「自分の持てるもの」を最大限に使って戦っているのです


右手がない選手は、残された左手と両足を使って、最大限の速度が出るように泳ぎます。両足がない選手は、キックの推進力ではなく両手の「かき」で推進力を得て、どんどん前に進んでいきます。

自分の「ない部分」を使って、無理に推進力を求めるのではありません。あくまで、「自分ができること」を最大限に頑張ることで、1秒でも速く泳ぎ切ろうとするのです


パラリンピックには、先天的な障がいを抱えている選手だけではなく、不運な事故によって障がいを負ってしまった選手も、数多くいらっしゃいます。

アスリートとしてトップを走り続けた、まさに「スーパーマン」であった方々が、不運な事故でその夢を絶たれることを想像すると、言いようのない胸の苦しさを覚えます。


しかし、彼ら、彼女らは、それを乗り越え、「今の自分ができること」を極めて、再び前を向いて戦っているのです。

8月の私はその姿を、自分自身の今後の生き方になぞらえていました。



3.「スーパーマン」になりたかった

私がパラリンピックに大きな感銘を受けた一因として、当時の私自身の精神状態がありました。


私は昨年末、「適応障害」という病気の診断を受けていました。


適応障害とは、生活におけるストレスにうまく対処できず、抑うつ状態や不安感、行動障害が現れる病気です。私の場合は、2~3年ほど前から、極端な疲労感で生活がままならない、朝うまく起きられない、急に涙もろくなる、時折正常な判断ができなくなる、などの諸症状が出ていました。

長らくの間、「このくらいよくあること」と、ごまかしながら生活していましたが、昨年の年末に起こった、仕事上のトラブルをきっかけに、何かが切れたようになってしまい、ついに日常生活が送れなくなりました。

まさに今年の私の生活は、白紙からのスタートだったのです。


しかしながら、生活が真っ白になったことで、よかったことがあります。病気の治療のさなか、不調の原因と向き合うことで私は、「ありのまま」を覚えることができたのです


恥ずかしながら私は、生まれてからこれまでずっと、「スーパーマンでありたい」「自分はスーパーマンになれる」と思っていました。

幸か不幸か、私は自他ともに認める「小器用な」人間です。癖をつかむのが得意なのでしょうか、幅広いジャンルの芸事で「それっぽく」見せることができるのです。

裏を返すと、「それっぽく」から先がなかなか伸びず、これといった得意分野は育ちませんでした。


皮肉にも「それっぽい」ものは、見てくれだけはいいもので、自然と周りからの評価が上がってしまいます。

それゆえに私は、「自分はもっとできる。こんなものではない。」と、理想を高く持ちすぎてしまいました。自分の理想と、「それっぽく」から先に伸びない実力とのギャップに苦しんで、心身の不調を生んでしまったのです。


そして、もう一つ自分を苦しめていたのが「あるべき論」の存在です。

思えば私は、生活のあらゆる局面で「こうあるべき」に縛られて生きてきたのだと思います。


学生の頃はずっと、キラキラしたクラスメイトの姿を真似て、そこにどうにか近づこうとして生きていました。そして先ほどの「小器用」が幸いしたのでしょう、私はこの他力本願なやり方で、少しずつ、形の見えない「理想の自分」に近づくことに成功していたのです。


その結果、どうなったでしょう。気づけば生きている24時間、ずっと「理想の自分」を演じて生活しているのです。ただ、いくら演じたとて、所詮は「役」のまま。死ぬまで24時間ずっと、同じ役を演じることが、果たしてできるでしょうか。


そして、それはどう頑張ったとて、「小器用」の産物です。

仕事では、本質を捉えていない、過去の成果の表層をなぞったような、内容の薄い成果しか挙げることができず、それが仇となったトラブルを多く抱えてしまいました。

プライベートでは魅力的な人間であろうと躍起になるあまり、気づけば高すぎるプライドを抱えていました。おそらく、知らず知らずのうちに自分から離れてしまった人もいると思います。


――これらの「小器用」の産物が、病気を機に一気にリセットされたのです

仕事、お金、パートナー……。さまざまな「今までの生活」を失った私は、少しずつ「あるべき論」から解放され、「ありのまま」であることをいとわなくなりました。


そんな私の目に、この夏のパラリンピアンの姿は、「ありのまま」の最上級のように映ったのです

自分に与えられた武器を精一杯に活用して戦うパラリンピアンが私に、「スーパーマンでなくてもよい」という、至極当たり前のことを教えてくれたのです。



4.カテゴライズをぬぐいたい

ここより先の内容は、旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌「OWL magazine」購読者向けの有料コンテンツとなります。月額700円(税込)で、2019年2月以降のバックナンバーも含め、基本的に全ての記事が読み放題でお楽しみ頂けます。ご興味のある方は、ぜひ購読頂ければ幸いです。

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