君にロックンロールは届かない

 もう終わりだね。君が遠くに見えるなんて歌があるけど、僕の彼女は遠くに見えるじゃなくてほんとに遠くに行ってしまったんだ。今は彼女を見ることさえレアだ。レアポケモン以上にレアだ。なぜ彼女は僕の元から離れてしまったのか。それはきっと彼女がロック嫌いになったからだ。

僕と彼女が出会ったのは、僕がストリートライブをやっていた渋谷の駅前の路上だった。その頃僕はプロになる日を夢見て朝から晩までずっとストリートライブをやっていた。そこにたまたま彼女が通りかかってきたのだ。僕は彼女を見かけた日時までちゃんと覚えている。午後3時頃観客達の後ろにありえないぐらいの可愛い女の子を見つけた。それが彼女だった。

 彼女は最初のうちは奥から覗いているだけだったけどだんだん前に出てきて他の女の子と一緒に見ているようになった。だけど彼女はいつも不機嫌そうだった。他の女の子が騒いでいる中彼女だけはいつも不機嫌そうにムッツリとした顔で立っていた。僕はそんな彼女が好きになり彼女のために曲まで書いたんだ。タイトルは『君にロックンロールを届けたい』だ。僕は曲を書き終えると猛練習した。いつ彼女が来てもちゃんと演奏できるように。

 そして彼女はいつも通りやってきていつものように僕の前に立った。僕は彼女を見てすぐさま曲目を変更して彼女に捧げる曲を演奏した。僕はもう彼女しか見ていなかった。他の子のことなんてどうでもよかった。僕は歌いながら彼女に向かって微笑んだ。ご覧これが君に捧げる曲だよ。この僕の眩しい笑顔を見て。この笑顔は君に向けられているんだよ。

 すると突然彼女は立ち上がって僕に近づいてこう言った。

「あのですね。あなたの演奏聴いててずっと言おうと思ってたんですけどいいですか?」

 大胆な告白は女の子の特権というけどこれはあまりにも大胆過ぎると僕は身構えた。すると彼女が続けてこう言った。

「あのですね。あなたギターのチューニング全然ずれてますよ。最初は無視して通りすぎてたんですけどあまりに酷くてつい睨みつけてしまいました。ずっと睨みつけてればチューニングが間違ってることわかってもらえるかなと思ってたんですけど全然ダメでしたね。ちなみに歌は酷すぎて評価に値しないのでせめてギターのチューニングぐらいなんとかしてください」

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