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部長

「課長、今夜は帰りたくないんです」

 と女子社員の赤坂美希は課長の広島健に抱きついた。広島は彼女を跳ね除けることは出来ず、もう彼女のなすがままになってしまった。

 広島と赤坂の足は知らず知らずのうちにホテル街の方へと進んでいた。このまま行ってしまっていいのだろうか。こんな事は一時の気の迷いだ。今すぐ足を止めるんだ。

 彼はこう自分を制しようとしたが、そんな必死の抵抗も目の前にこうしてぶら下がる赤坂への欲望にあっさりと負けてしまった。

 ああ!なんて事だろう。ホテル街を見た途端、広島の下腹部は膨らみ始めてしまった。ホテルでの赤坂とのあれこれを想像したら急に下腹部が熱くなってしまったのだ。ああ、もうどうにもとまらない!

 赤坂はそんな広島に向かって彼の耳元に向かってダメ押しのようにこう囁いた。

「課長、私をホテルに連れて行って……」

 赤坂のこの言葉で広島は完全に理性を失った。彼は赤坂の手を引っ張り目の前のホテルに入った。そして彼女を連れてチェックインしようとした時だった。

「おい、広島君! 何をやってるんだ!」

 広島はこの聴き慣れた声にビックリして後ろを振り向いたが、なんとそこに渋谷部長が立っていたのである。部長は再び怒鳴り出した。

「赤坂君に何をやってるんだと聞いてるんだ! 部下に肉体関係を強要するなんて! なんだ、その膨らんだ下半身は! 君は恥というものを知らないのか! 赤坂君もう大丈夫だよ。早くこっちに来なさい」

 渋谷の言葉を聞いた赤坂は呆然として立っている広島の手を無理やりほどき渋谷の胸にしなだれかかってこう言った。

「部長、ありがとうございます。私、課長に無理やりホテルに連れ込まれそうになって、もし部長が助けてくれなかったらどうなっていたかわかりません。部長……」

「なんて事ないさ。部下を守るのが上司の務めだからな。今夜はずっと君といよう。おい、広島君! いつまでそこで突っ立ってるつもりなんだ! とにかく今回だけは君のことは見逃してやる。だからさっさと自宅に帰りたまえ!」



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