カルチャーギャップ

 普通の日本のOL田中美咲が三年前に東南アジアのとある王室の第三夫人に迎えられたというニュースは大々的に流れたから皆さんも知っているだろう。だが彼女が結婚してから三年間日本人としてどれだけの苦しみを舐めてきたかを知るものはあまりいない。田村実咲のくるしみの原因とは大体予想がつくように日本と東南アジアの小さな島国の王室との深刻なカルチャーギャップなのだが、マスコミは殆どその原因について語らない。単に日本とその島国との国際関係のためか、それとも報道すら出来ない深刻な理由のためか。ハッキリ言ってそのどちらでもあり、どちらでもない。カルチャーギャップであり、報道できない深刻な理由でもある。だが、彼女が苦しんでいるのを放っては置けない。私はここに第三夫人の苦しみの原因の全てをここに書く事にする。

 田村実咲が島国の国王と出会ったのは彼女が勤めていた会社が国王の国のインフラを整備する事になったのを記念したパーティでのことだった。彼女はそこでゲストとしてやって来た国王に見染められて熱烈に口説かれた。国王は君を第三夫人にしたい。第三夫人といっても三番目の女じゃない。本当は君がベストなんだけど無理矢理結婚させられたババアたちにに気を遣わなきゃいけないから三番目なんだ。だけど僕はこれからは君だけを愛する。閨房も君のとこしか行かない。僕の全ては君だけのものなんだ。とこんなふうに実咲に向かってこんな事を言い、実咲はその国王の熱烈な言葉に感激してそれから半年後に結婚したのである。

 だがここで問題が起こったのだ。実咲は国王の妃として島国の国民になるために現地の名前に改名する事になったのだが、国王は愛する実咲のために国で最も美しい名前をつけてやると言い出したのだ。実咲は当然喜んだ。このエメラルドブルーの海に囲まれた美しい島にきてこんなにも愛されるなんてと彼女は感激しまくったが、その名前を聞いた途端頭が真っ白になった。何という事だろう。この東南アジアの王国で最も美しいと言われている名前は、日本語ではとても口にできない名前であったのだ。彼女は愛する国王に私如きがそんな名前を名乗るなんてあまりにもったいない。もっと地味な名前でいいからと断ったが、しかし国王はこれが僕のあなたへの愛だと言って聞かずとうとう田中実咲はその日本ではとても口に出来ない名前に変えられてしまったのだ。ああ!田中実咲が日本ではとても口に出来ない名前に変えられてから日本の報道はピッタリとなくなり、代わりに彼女のその王国での名前がネットでバズりまくった。国王の第一夫人と第二夫人は日本のネットで彼女の名前が嘲笑の元になっているのを知ってか、わざとらしく彼女の前で日本ではとても口に出来ない名前をフルで呼ぶのだった。

 日本ではとても口に出来ない名前を持つ第三夫人は国王をはじめとする人間に日本ではとても口に出来ない名前で呼ばれるたびにもうやめてと耳を塞ぐのだが、しかしそんな彼女を心配して日本ではとても口に出来ない名前を呼んで大丈夫かと声をかけるのでどうしようもなかった。

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